院長コラム

HCV(C型肝炎ウイルス)抗体陽性妊婦さんへの当院における対応

本日、国立成育医療研究センター総合診療部の先生から、小児のC型肝炎治療についてのご講演がありました。
C型肝炎とは、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染することによって起こる肝臓の病気です。HCVは妊娠中の母親から胎児へ感染する可能性があるため、わが国では全妊婦さんに対して、妊娠初期にHCV抗体検査(血液検査)を行っております。
今回は「産婦人科診療ガイドライン 産科編2023」やご講演の内容を交えながら、HCV抗体陽性の妊婦さんに対する当院における対応について説明致します。

「HCV-RNA」定量検査:陰性の場合

HCV抗体陽性の患者さんは、「HCV感染既往者」と「HCV持続感染者(キャリア)」に分けられます。
HCV感染既往者には現在HCV自体はいないため、母子感染の危険性はありません。
一方、キャリアの場合は母子感染の可能性があります。
そして、現在HCVが存在しているかどうかを調べる検査が、「HCV-RNA」定量検査です。
「HCV-RNA」定量検査が陰性であれば母子感染の心配がないため、基本的には当院での分娩管理は可能です。
ただし、妊娠中にウイルスの量が変動することがあるため、妊娠後期に再検します。もし、HCVが増量している場合は、母子感染のリスクを否定できないため、分娩は他施設にお願いすることがあります。

「HCV-RNA」定量検査:陽性の場合

HCV-RNA」定量検査が陽性の場合、つまりキャリアの場合は母子感染の危険性があるため、高次周産期施設(国立成育医療研究センターなど)へ紹介致します。
ある調査では、一般妊婦のHCV抗体陽性率は約0.5%、そのうち約70%がHCV-RNAが陽性、更にそのうち母子感染率は約6%と報告されています。尚、ウイルス量が高いと母子感染のリスクが高まると言われています。

母乳育児に関して言えば、授乳が母児感染のリスクを高める事はないため、授乳を制限する必要はありません。
また、経腟分娩と帝王切開では、母児感染率に差がないと言われています。
ただし、分娩様式による母子感染率の比較については不明な点も多いため、HCVキャリアの妊婦さんには、高次施設の専門医にご相談頂くことをお勧めします。