院長コラム

婦人科がん薬物療法の副作用への漢方薬

先日、東京医療センターの婦人科腫瘍専門医の先生のご講演があり、婦人科がん薬物療法、特に卵巣がんの分子標的薬の副作用に対する漢方薬についてお話を伺いました。
今回は、当院でも病診連携の一環として今後取り入れていきたい漢方療法について、私見を交えながらお伝え致します。

卵巣がん薬物療法の副作用
卵巣がんに対する分子標的薬(オラパリブなど)は比較的新しい治療薬で、抗腫瘍効果が高く、臨床の現場で広がってきています。
ただし、様々な副作用の影響で、治療継続を断念せざるを得ないケースも少なくないそうです。特に3か月以内の早期に出現することが多いため、服薬継続のためには副作用対策は必須であり、漢方薬がその一助になるとのことです。
副作用には大きく二種類あります。一つは、貧血、白血球減少症、血小板減少症といった“血液毒性”、もう一つは悪心・嘔吐、倦怠感、下痢といった“非血液毒性”です。

“血液毒性”に対する漢方薬
「十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)」に含まれる“トウキ”“シャクヤク”などの生薬は血液の成分をアップさせる作用があるため、血液毒性に有効のようです。
血液毒性に対する効果を高めるため“芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)”を併用することがあるそうですが、下痢を認めることがあるため“トウキ”“シャクヤク”を含む「当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)」を併用することも有用とのことです。
その他、「温経湯(ウンケイトウ)」「人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)」なども血液毒性対策の候補となります。

“非血液毒性”に対する漢方薬
非血液毒性の特徴として、胃腸の働きが弱くなり、元気がなくなることが挙げられます。
そのため、胃腸機能を高め、元気を与え、体を温めるような生薬が非血液毒性の副作用対策には必要となります。
そのような作用をもつ“ニンジン”“ケイヒ”“オウギ”などの生薬を含む漢方薬に、前述の「十全大補湯」があります。
さらに、「六君子湯(リックンシトウ)」を併用すると、胃腸機能改善のアップが期待できます。
尚、前述の「当帰芍薬散」にも胃腸機能を高める生薬が含まれているため有用です。

「十全大補湯」の効能・効果は「病後の体力低下、倦怠疲労、食欲不振、冷え、貧血」であり、当院でも多くの方に処方し、その効果を実感している漢方薬の一つです。
婦人科がん薬物療法の副作用に対して、このような「十全大補湯」を軸に、「当帰芍薬散」「六君子湯」などを併用することが有用のようです。
高次施設で婦人科がん薬物療法をされており、副作用対策で漢方療法をおこなっていらっしゃる方に対しては、当院としても漢方薬の処方などできる限りサポートして参ります。