院長コラム

黄体ホルモン製剤の使い分け

黄体ホルモンとは、排卵後の卵巣にみられる“黄体”という組織から分泌されるホルモンのことです。
このホルモンは、卵胞ホルモン(エストロゲン)により厚くなった子宮内膜に対し、その増殖を抑え、妊娠に適した状態に変化させる作用があります。
このような性質を利用し、様々な黄体ホルモン製剤が開発されています。
今回は、黄体ホルモン製剤の種類と使い分けについて説明致します。

 

〇天然型プロゲステロン=「エフメノカプセル」

人体に存在する黄体ホルモンと同じ成分を天然型プロゲステロンといいます。製剤は「エフメノカプセル」といい、現在は更年期障害・閉経後骨粗鬆症に対するホルモン補充療法(HRT)として、エストロゲン製剤と一緒に用いられています。
子宮を有している方にHRTを行う場合、エストロゲン製剤のみを投与すると子宮体がんのリスクが増加します。このリスクを減らすためには、子宮内膜の増殖を抑える黄体ホルモン製剤を併用することが必要となります。
以前は、他の黄体ホルモン製剤を使用することが一般的でしたが、それらのホルモン製剤は、乳がんリスクをわずかながら上昇させることが知られていました。
その点、エフメノカプセルは乳がんリスクを上昇させることがないため、2021年の発売以来、多くの更年期女性に使用されています。

 

〇レボノルゲストレル=緊急避妊薬・黄体ホルモン放出子宮内システム(IUS:ミレーナ)

避妊をせずに性交をした場合、3時間以内に緊急避妊薬を服用すると、妊娠の可能性を軽減することができます。そのような緊急避妊薬として「ノルレボ錠」や「レボノルゲストレル錠」がありますが、どちらもレボノルゲストレルを用いた製剤です。排卵を後ろにずらすことで受精を防ぎ、避妊効果を発揮する薬剤ですが、受精卵の子宮内膜への着床を阻害する働きもある、といわれています。
また、子宮内腔に留置し、子宮内膜組織の増殖を抑制することで、月経困難症・過多月経の治療に用いられるIUSにも、レボノルゲストレルが使用されています。

 

〇ジェノゲスト=「ディナゲスト錠」「ジエノゲスト錠」

ジエノゲストには、子宮内膜組織の増殖を抑制する力は強いものの、全身的なエストロゲンの作用をあまり弱めることがない、という特徴があります。
そのため、長期に服用したとしても、更年期障害や骨量低下といったエストロゲン低下によるトラブルをあまり気にする必要はありません。
ちなみに、ディナゲスト錠1.0㎎は「子宮内膜症・子宮腺筋症」の方、0.5㎎は「月経困難症」の方に用いられます。

 

低用量ピル(OC・LEP)はエストロゲンと黄体ホルモンの配合薬ですが、薬剤の種類によって含まれる黄体ホルモンの種類が異なります。
どの黄体ホルモンがいい、悪いということではなく、それぞれの特徴を考えて使用することが大切です。
当院では、お一人おひとりの症状や副作用を検討した上で、最善の薬剤をお勧めするよう心がけています。