院長コラム

鉄欠乏性貧血の原因・診断・治療

血液中にはヘモグロビンという成分があり、全身の組織に酸素を運んでいます。
鉄はヘモグロビンを構成している重要な物質であり、鉄が不足するとヘモグロビンが減少し、貧血となります。貧血にはいくつか種類がありますが、女性で最も多いのが、鉄不足が原因の「鉄欠乏性貧血」です。
今回は、鉄欠乏性貧血の原因・診断・治療について説明します。

 

鉄欠乏性貧血の原因

  • 鉄の需要の増加

女性の場合、慢性的な出血(過多・過長月経、痔出血など)、小児・思春期の成長、妊娠・出産・授乳など主な原因です。
過多・過長月経は、子宮筋腫、子宮腺筋症などの病気が原因で生じることがあります。
妊娠中は、お腹の赤ちゃんに鉄を供給するため需要が増えるだけでなく、妊娠中期以降になると血液が薄まるため、貧血になりやすくなります。
また、分娩時の出血や授乳のため、産褥期も貧血に注意が必要です。

 

  • 鉄の供給の減少

特に鉄の需要が増える小児から思春期にかけての時期は、バランスの取れた食事から十分な鉄を摂取する必要があります。
しかし、偏食や過度のダイエットのために鉄の摂取が不足し、鉄欠乏性貧血となる若年女性も少なくありません。

 

鉄欠乏性貧血の症状・診断

代表的な症状は、疲れやすい・めまい・頭痛・動機・息切れなどですが、顔色が青白いと他の人に指摘されることもあります。また、爪が割れやすくなる・氷を食べたくなるといった症状を認める場合もあります。
診断は、まぶたの内側の粘膜(眼瞼粘膜)が白くなっているか、視診で確認することもありますが、血液検査で確定診断を行います。
代表的な指標は、「ヘモグロビン値」と「貯蔵鉄の量(フェリチン)」です。非妊娠時のヘモグロビン値が12g/dl未満、妊婦さんは11 g/dl未満で貧血と診断され、鉄欠乏性貧血の治療および貧血の原因となっている疾患の治療を行うことがあります。

 

鉄欠乏性貧血の治療薬

  • 内服薬

貧血が軽度の場合は「フェルムカプセル」などの鉄剤の内服薬を用います。
人によっては胃痛や嘔気などの消化器症状を認めるため、「インクレミンシロップ」へ変更することがあります。
「人参養栄湯」などの漢方薬も貧血に有用であり、強い貧血の方やふらつき・疲労感を認める方には鉄剤と併用することがあります。

  • 注射薬

貧血が強く、内服では効果が弱い場合には、「フェジン静注40mg」などの鉄剤の静脈注射を数日に渡り行うことがあります。
また、ヘモグロビン値が8 .0g/dl未満で早急に貧血を改善したい場合には、「フェインジェクト静注500mg」を週に1回、合計3回まで静脈注射を行うことがあります。

 

鉄欠乏性貧血の治療は、ヘモグロビン値を正常範囲に戻し、フェリチンを上昇させて、鉄の欠乏状態が改善されるまで行います。
また、過多・過長月経の治療として経血を減少させるために、ホルモン療法を併用する場合もあります。
ただし、貧血を改善させるためには、食事からの鉄摂取が基本になります。
日頃から、鉄が多く含まれる食品を意識して摂取するようにしましょう。