院長コラム

月経周期と下腹部痛との関連

性成熟女性の月経周期は、月経期、卵胞期、排卵期、黄体期に分かれ、それぞれの時期に下腹部痛を認めることがあります。
今回は「日本産科婦人科学会雑誌2020年9月号」などを参考に、月経周期と下腹部痛との関連について説明します。

 

月経期:月経初日~7日目頃

月経期の下腹部痛のほとんどは月経困難症であり、子宮内膜の剥離や経血を排出するための子宮収縮が主な原因です。
特に、子宮内膜症による月経困難症は、卵巣、腹膜、子宮を支えている靭帯などに存在している病変の影響もあり、下腹部痛や腰痛は強く長引く傾向にあります。
また、子宮筋を収縮させるプロスタグランディンという物質は、腸管の筋肉も収縮させるため、月経期に腸ぜん動の亢進や下痢が原因の下腹部痛を認める場合もあります。

 

卵胞期:月経周期8日目~14日目頃

卵子を入れている卵胞という袋が増大する時期を卵胞期といいます。この時期は、あまり下腹部痛をきたすことは多くはありません。
ただし、子宮内への雑菌の侵入を防ぐためのバリア機能が低下するといわれています。そのため、細菌やクラミジアなどの病原体が腟から子宮に侵入し、さらに感染が進むと子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎などをきたし、下腹部痛を認める可能性があります。

 

排卵期:月経周期14日目前後

月経周期14日目頃になると、卵胞が大きくなり、卵胞の表面が破裂して卵子が飛び出します。
これを排卵といい、卵胞の中に入っていた卵胞液や卵胞の破裂により断裂した血管からの出血(卵胞出血)が腹膜を刺激し、下腹部痛を感じることがあります。
ただし、その多くは軽度で、数日以内におさまります。

 

黄体期:排卵後~月経まで

排卵した後の卵胞を黄体といい、妊娠に適した状態に子宮内膜を変化させるため、黄体ホルモンを分泌します。妊娠が成立しなければ黄体は消失し、月経が始まります。排卵後から月経までを黄体期といい、比較的下腹部痛がみられやすい時期です。
排卵で生じた卵巣出血が黄体に溜まる際、水風船のように大きくなることがあります。これを出血性黄体嚢胞といい、時に激しい下腹部痛をきたしますが、通常は数時間から半日程度で自然におさまります。
ただし、激しい運動や性交の刺激で出血性黄体嚢胞が破裂し、腹腔内に出血することがあります。これを卵巣出血といい、血液による腹膜刺激で激しい下腹部痛をきたすことがあります。多くは自然に止血し、腹腔内の血液も吸収されますが、出血が多量の場合や出血が自然に止まらない場合は手術が必要なこともあります。
また、黄体期は黄体ホルモンの影響で腸管動きが弱くなり、便秘や腹部膨満感を認め、それが下腹部痛の原因になることもあります。
さらに、黄体ホルモンには体に水分を溜め込む作用があるため、骨盤内の静脈の血流が滞りやすくなることも、月経前の下腹部痛の原因となっている可能性があります。

 

以上の下腹部痛の原因はほんの一部であり、実際には様々な原因が混在しているケースも少なくありません。
月経周期に関連している下腹痛が気になる方は、是非婦人科を受診して下さい。