院長コラム

過多月経と月経困難症に対するホルモン治療

月経とは、子宮内膜が剥がれて、血液とともに排出される現象を言います。そして、子宮内膜からは、痛み物質であり、子宮筋を収縮させる働きのあるプロスタグランジンという物質が産生・分泌されます。
子宮内膜が厚ければ、経血量が増えるため過多月経になり、同時に痛み物質も増えるため月経困難症になる可能性も高くなります。つまり、過多月経と月経困難症は密接に関連しています。
逆に言えば、子宮内膜を薄くすれば、過多月経も月経困難症も改善する可能性があります。今回は、過多月経と月経困難症の両方みられる方に対するホルモン療法について説明します。

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
LEPは月経困難症の治療薬であり、一日一回一錠の服用で子宮内膜の増殖を抑え、月経痛を軽減させます。同時に、経血量が軽減するため、保険適応ではありませんが、過多月経にも有効です。薬剤の種類によっては、連続120日服用が可能であるため、月経の回数も減らすことができます。
また、LEPに含まれているエストロゲンの効果で排卵を抑制するため、ほぼ100%の避妊効果も期待でき、排卵痛・月経前症候群(PMS)を認める方に有用です。
ただし、40歳以上の方、肥満の方、喫煙者の方、血栓症の既往の方など、慎重投与を要する方やLEP禁忌の方も少なくないため、必ず婦人科を受診して処方してもらいましょう。

黄体ホルモン製剤(内服薬):ジエノゲスト錠0.5㎎
排卵後の黄体から分泌される黄体ホルモンには子宮内膜組織の増殖を抑える働きがあります。様々な黄体ホルモン製剤の中でもジエノゲスト錠0.5㎎は、月経困難症に保険適応のある薬剤で、一日二回、一錠ずつ連日服用して頂きます。結果的に過多月経の治療にもなりますが、服用開始して間もなくは、不正出血が長引く事もあります。
エストロゲンが含まれていないため、血栓症の副作用がない事が利点ですが、一日二回忘れずに服用して頂く必要があります。
尚、避妊目的では使用できませんが、排卵抑制作用もみられるため、排卵痛・PMSへの効果も期待できます。

黄体ホルモン放出子宮内システム:IUS(ミレーナ)
黄体ホルモンを内服ではなく、子宮内膜へ直接かつ持続的に放出するシステムがミレーナです。ミレーナは、月経困難症、過多月経のどちらも保険適応となります。
子宮内膜組織へほぼ選択的に働くため、全身的な副作用はほとんどありませんが、排卵を抑制することはないため、排卵痛やPMSには無効です。
一度挿入すると5年間は有効であり、挿入後6か月間は過長月経や不正出血を認めることもありますが、次第に出血は減少し、1年も経過すると約2割の方は無月経になると言われています。
月経開始7日以内にIUSを子宮内に挿入しますが、分娩の経験がない方の場合は挿入時に痛みを伴う事があるため、当院では他の薬剤を第一選択としています。

過多月経は貧血の原因になり、月経困難症は生活の質を低下させます。
また、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症といった婦人科疾患が過多月経や月経困難症の原因であることもあります。

過多月経・月経困難症がみられる方、特に急に症状が悪化した方は、早めに婦人科を受診するようにしましょう。