院長コラム

良い眠りのために

人には体内時計があり、日中は脳の活動を維持するように、夜は疲れた脳を眠らせるように調節しています。ただし、生活習慣やストレスなどによってそのバランスが崩れると、睡眠障害をきたす恐れがあります。
先日、世田谷区医師会の講演会で、睡眠についてのお話がありました。今回は、体内時計の観点を中心に、良い眠りのためのポイントについて共有したいと思います。

 

 

不眠症の様々な症状

不眠症には、夜間に眠れないといった不眠症状だけでなく、不眠により日中の生活に支障をきたしている状態も含まれます。

主な症状として、寝床に付いても寝付けない「入眠障害」、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」、朝早く目が覚めてしまい、その後眠れない「早朝覚醒」、朝起きた時の気分がスッキリせず、布団からでられない「熟眠障害」、そして日中の居眠りなど「日中の活動低下」などが挙げられます。

以下に良い眠りのための生活上のポイントを説明しましょう。

 

 

朝は光を浴びましょう

人の体内時計は1日約25時間に設定されています。つまり、1日につき約1時間ごと遅くなるため、日常生活を送るためにはどこかで1時間リセットする必要があります。それが、朝の光です。

朝起きたらカーテンを開けて、あるいは散歩やジョギングなどで太陽の光を浴びると、体内時計がリセットされ、活動モードに入ります。また、眠りを促す「メラトニン」というホルモンは、光を浴びてから約16時間後に分泌されるといわれています。つまり、朝6時頃に光を浴びると、夜の10時頃にメラトニンが分泌され、スムーズに睡眠へと移行できます。

 

 

寝る前のスマホ、パソコン、テレビなどは避けましょう

せっかく朝起きて、日の光を浴びて、夜寝る頃にメラトニンの分泌が増加しても、寝る前にスマホ、パソコン、テレビなど明るいモニター画面を見てしまっていれば、朝の習慣も台無しです。寝る前に明るい光を見ていると、脳が夜と認識せず、メラトニンの分泌が減少してしまうそうです。特に、テレビゲームなどをしてしまうと脳が興奮状態になり、ますます眠れなくなります。

寝る前は、スマホ、パソコン、テレビなどの明るい画面は避け、静かな音楽や読書でリラックスすることをお勧めします。

 

 

体温の変化を利用しましょう

体温が下がると寝つきが良くなり、体温が上がると寝覚めが良くなります。つまり、寝る頃に体温が下がるように行動することが、入眠障害の解決に繋がります。

具体的な方法の一つは、夕方に軽い運動することです。ウォーキングや体操など、軽い運動をすることで体温が上昇しますが、数時間後の寝る時間になると、体温が下がり眠りに入りやすい状態になります。また、適度な疲れが良い睡眠にも繋がります。

二つ目の方法は、寝る1~2時間前にぬるめのお風呂に入ることです。ゆっくりとお風呂に入ると心身の疲れが癒されリラックスできます。また、入浴により上昇した体温が、1~2時間後の就寝時には下がるため、眠りも深くなります。ただし、熱いお風呂はむしろ神経が高ぶってリラックスできないため、お風呂の湯加減はぬるめに設定しましょう。

尚、寝る前のアルコールは体温が一気に下がるため寝つきは良くなりますが、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドは交感神経を興奮させて体温を上げてしまうため、夜間に目が覚めたり、熟睡出来なかったりするそうです。さらに飲み過ぎると、(皆さんもご経験があると思いますが)夜中に何度もトイレに行くはめになります。やはり“寝酒”は程ほどに。

 

 

生活習慣の改善だけで治らない不眠症には、薬物療法を行います。
抗不安薬が睡眠薬として用いられることが一般的ですが、長期・多剤併用・高用量投与を避けることが求められています。
また、最近では体内時計を調節する目的で、メラトニン様の薬剤(メラトニン受容体アゴニスト)を用いることも多くなっているようです。
当院では更年期障害としての睡眠障害に対応することが多いため、主にホルモン剤や漢方薬を用いていますが、これからは患者さんの体内時計を調整するような薬剤の使用も検討して参ります。