院長コラム

貴女のその症状、“閉経後性器尿路症候群(GSM)”かも知れません

閉経後性器尿路症候群とは、閉経後の性ホルモン分泌低下に関連して生じる性器および尿路の形態的変化と機能障害の総称で、海外ではgenitourinary syndrome of menopause(GSM)と呼ばれています。2014年に国際学会で提唱された新しい概念であるため、あまり一般にはなじみのない疾患ですが、中高年女性の約半数が罹患しているとも言われています。
今回は、「日本産婦人科医会報 2019年2月号」の記事を中心に、GSMの症状と治療法について説明します。

 

 

GSMの主な自覚症状

外陰部の乾燥感・灼熱感・掻痒感や腟のゆるみ・異臭などの性器症状と、頻尿・尿意切迫感・尿漏れといった尿路症状が主体です。
また、性交渉の機会がある場合には、性交時の腟分泌物の減少、性交時の不快感や疼痛、性交後出血、性交時の快感の低下といった性機能障害も多く見られます。

 

 

GSMの発症のメカニズム

閉経後の性ホルモンの低下により、以下のような変化が見られます。

① 外陰・腟の血流低下による、外陰部・腟内の乾燥、腟分泌物の減少
② 腟粘膜のコラーゲンの減少による菲薄化
③ 腟内の善玉菌(乳酸桿菌)の減少に伴う雑菌の増加

これらの変化の影響で前述した自覚症状を認め、後述する外陰部の変化が見られます。

 

 

GSM患者さんの外陰部の特徴

○ 包皮・陰核
正常な包皮はめくることができますが、GSM患者さんの包皮は陰核と癒着し、めくりづらくなります。また、接触による疼痛や不快感が認められることもあります。

○ 小陰唇
正常の小陰唇は腟の入り口を塞ぐように存在していますが、GSM患者さんの小陰唇は湿潤性を失い、厚みや幅が薄く短くなっており、人によっては小陰唇が消失してしまっています。

○ 外尿道口
正常の外尿道口は湿潤で閉まっているため、はっきりと確認することはできませんが、GSM患者さんの外尿道口ははっきりとした円形として確認されることがあります。
また、尿道カルンクルという、軟らかくて赤い良性腫瘍もGSMのサインといわれています。

○ 腟
正常の腟は湿潤しピンク色で伸展性に富んでいますが、GSM患者さんの腟は帯下が減少し、腟口の粘膜は乾燥し、狭くなります。
婦人科診察(膣鏡診、内診、経腟超音波検査など)で疼痛をきたす中高年の方は、GSMである可能性があります。

 

 

当院におけるGSMの治療法

GSMは慢性進行性の疾患であるため、経過観察していても症状は改善しません。毎日の保湿剤による外陰部スキンケアによって、ある程度は外陰部の乾燥は予防できますが、多様な症状に対しては治療が必要です。以下に、当院で行っている主な治療法を紹介致します。

○ ホルモン補充療法(HRT)

更年期障害や閉経後骨粗鬆の治療に用いるHRTですが、性器・尿路症状にもある程度効果が期待できます。60歳以上で初めてホルモン療法を行なう方には、少し軽めのエストロゲン製剤の内服薬または腟錠(エストリオール錠またはエストリオール腟錠など)を用います。

○ 炭酸ガス外陰部・腟レーザー治療(モナリザタッチ)

外陰部・腟レーザー治療とは、腟内・腟入口部・大陰唇にそれぞれ最適なエネルギーによる照射を行う治療で、粘膜や皮膚の再生を促します。通常は月1回、合計3回治療し、その結果、外陰・腟の血流が改善され、粘膜・皮膚のコラーゲンが増加するため、GMSの様々な症状が改善する可能性があります。特に性交痛、外陰部の灼熱感・乾燥感、腟のゆるみに有効な印象があります。ただし、自費診療となる旨、ご了承下さい。

○ プラセンタ注射(メルスモン皮下注)

プラセンタ注射は人の胎盤由来のエキスで、更年期障害全般に効果が期待できます。HRTや漢方療法と併用することが多く、外陰部の乾燥感が改善した方も少なくありません。

○ その他

性交時は潤滑ゼリー(スプリングゼリー)の使用、膣入口部痛の時は男性ホルモン含有クリーム(グローミンクリーム)など、症状に合わせて外用剤を使用します。

 

 

性器・尿路系のトラブルは、なかなか人に相談しづらいと思いますが、お一人で悩まずに是非ご来院下さい。ご一緒に解決方法を探っていきましょう。