院長コラム

肥満の方の更年期対策

更年期になると、加齢による活動量や筋力の低下、女性ホルモンであるエストロゲンの低下に伴う内臓脂肪の蓄積、エネルギー消費量を上回る摂取量の増加等により、体脂肪の分布が変化し、皮下脂肪よりも内臓脂肪が増量します。
内臓脂肪の蓄積は、高血圧、脂質異常、糖代謝異常に影響を及ぼすため、注意が必要です。
今回は「産科と婦人科 2022年5月号」を参考に、肥満の方の更年期対策について情報を共有したいと思います。

  • 肥満が更年期障害に与える影響
    閉経前は主に卵巣でエストロゲンが分泌されますが、閉経後は卵巣機能が低下し、主に粗暴組織で産生されることが知られています。そのため、肥満女性は脂肪組織が多いためエストロゲン分泌も比較的多く、更年期障害のリスクを下げると、以前は言われていました。
    ところが近年、肥満が重度の更年期症状のリスク因子であると言われており、ホットフラッシュなどの血管運動神経症状は肥満が影響しているとの報告もあります。
    その他、肥満は、膣・外陰部の炎症やかゆみ、尿失禁、膣乾燥、うつ状態、関節痛・筋肉痛との関連も報告されています。

肥満女性が更年期障害の悪化を防ぐために
体脂肪は深部体温の上昇と温度調節の遅延に関与しているといわれており、断熱効果や異常な交感神経の活動を招くそうです。
また、閉経前の喫煙が、更年期障害に与える肥満の影響を強めるとも言われています。
そのため、できれば40歳前に禁煙し、食生活や運動習慣を見直すことで、普通体型を維持することが勧められます。

・更年期障害に対するホルモン治療の注意点は
閉経後は閉経前に比べて、肥満やメタボリックシンドロームの発症リスクが3倍高くなるといわれており、心血管系のリスクも上昇します。
一方、エストロゲンを投与することにより、腹部脂肪量の減少、糖代謝の改善、悪玉コレステロールの低下などがみられるなど、ホルモン補充療法(HRT)にはメタボリックシンドロームに対する効果が期待できます。
しかし、肥満女性の場合は、すでに生活習慣病に罹患している可能性があり、血栓症のリスクも高い可能性があります。
実は、エストロゲンには血栓症を招くリスクを高める危険性があるため、肥満女性にHRTを行うには注意が必要を要します。
内服薬に比べて経皮剤(皮膚から成分が吸収)は血栓症リスクが低いため、肥満女性に対するHRTとして、メノエイドコンビパッチ、エストラーナテープ、ジェル剤(ディビゲル、ル・エストトロジェル)を第一選択として使用することが望ましいと考えられます。

肥満は子宮体がんや乳がんの発症リスクも高めます。
エストロゲンもこれらのリスクを高めるため、肥満の方でHRTを行っている方は、定期的に子宮体がん・乳がんの検診を受けて頂く事が必要です。
そもそも肥満を予防するために、あるいは悪化させないために、できるだけ閉経前から(もちろん閉経後も)生活習慣を見直し、適正な体重を維持するよう心掛けましょう。