院長コラム

糖尿病をお持ちの女性に対するホルモン補充療法(HRT)

更年期障害や閉経後骨粗しょう症の治療としてHRTは有用で、広く行われています。
一方、糖尿病患者数は年々増加しており、2型糖尿病は40歳以降に起こりやすいといわれています。
つまり、糖尿病をお持ちの更年期女性に対してHRTを行うかどうかを検討する場面が、今後益々増えていくことが予想されます。
今回は「ホルモン補充療法ガイドライン 2017年度版」などを参考に、糖尿病をお持ちの女性に対するHRTについて、情報共有したいと思います。

糖尿病に関連するHRTの禁忌症例と慎重投与例

HRTにより、心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳卒中、静脈血栓塞栓症といった疾患のリスクが上昇することが知られています。
これらの疾患は動脈硬化のある方に起こりやすく、実は糖尿病自体が動脈硬化の要因の一つである事が知られています。
つまり、糖尿病患者さんの中には、動脈硬化性疾患を抱えている可能性が少なくないと言えます。
以下に、糖尿病に関連するHRT禁忌症例と慎重投与例の一部をお示しします。
【禁忌症例】
〇急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往
〇心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往
〇脳卒中の既往
【慎重投与例】
〇肥満
〇血栓症のリスクを有する場合
〇コントロール不良な糖尿病
〇コントロール不良な高血圧
尚、慎重投与例は必ずしもHRT禁忌ではありませんが、当院では安全性を考慮し、糖尿病患者さんの慎重投与例には行っていません。

HRTの糖代謝への影響

経口HRTの作用として、血糖・インスリンの低下とインスリン抵抗性の改善(血糖を上げづらくする)が知られています。
また、糖尿病でない方に経口HRTを行った場合、行わなかった群と比べて、新しく糖尿病になってしまう率が低値であった、との報告もあります。
つまり、経口HRTには、ある程度糖尿病の予防効果が期待できるかも知れません。
ただし、ガイドラインには「糖尿病の治療や発症予防を目的とした使用は推奨されない」と明記されています。

糖尿病をお持ちの女性であっても、動脈硬化性疾患がなく、血糖コントロールが良好になされているのであれば、HRTは可能といえます。
ただし、HRTを行っていいかどうか、事前にかかりつけの糖尿病専門医にお尋ね頂くとより安心です。
当院では、HRTのメリットとデメリットを考え、患者さんの健康と生活の質の向上のために、最善の治療法を検討して参ります。