院長コラム

異所性妊娠の診察

排卵日(性交日)を妊娠2週0日とした場合、一般的に市販の妊娠反応検査は、妊娠3週後半から4週頃から陽性となります。また、多くの場合、妊娠5週頃から子宮内に胎嚢(胎児を入れている袋)を経膣超音波検査で確認できるようになります。つまり、妊娠反応が陽性になってから、子宮内に胎嚢が見られるまで、約1週間のタイムラグがあります。
しかし、妊娠5週以降になっても子宮内に胎嚢が見られない場合は、異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性も否定できません。
今回は、「産婦人科診療ガイドライン産科編2020(日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会編)」などを基に、異所性妊娠の診察について説明します。

 

 

異所性妊娠とは

受精卵が子宮内腔以外に着床することを異所性妊娠といい、全妊娠の1~2%にみられるといわれています。着床する部位は卵管がほとんどで、異所性妊娠の約98%を占めます。
異所性妊娠の代表的な症状は下腹部痛と性器出血ですが、症状からは妊娠初期流産との鑑別は困難です。
卵管で妊娠した後、自然に流産に至ることも少なくありませんが、まれに卵管が破裂し、多量の腹腔内出血や激しい下腹部痛を認め、ショック状態に陥ることもあります。
異所性妊娠の治療は、腹腔鏡下での卵管切除術など手術療法となることが多いですが、ごく初期の卵管妊娠で自然流産になりそうな場合は、あえて手術をせずに経過観察となるケースもあります。

 

超音波検査での所見

妊娠5週以降、明らかな胎嚢が子宮内腔に認められず、卵管など子宮腔外に胎嚢や胎芽(妊娠10週未満の胎児)が認められた場合は異所性妊娠と診断し、高次施設へ転院となります。
また、卵管に腫瘤様の超音波像がみられた場合や、明らかな腹腔内出血の所見がみられた場合なども、異所性妊娠疑いとして対応します。
尚、多量の腹腔内出血の所見に加え、激しい下腹部痛や血圧低下などのショック症状がみられた場合は、手術などの緊急処置が必要であるため高次施設へ救急搬送となります。

 

尿中ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)値の評価

妊娠すると絨毛という組織からhCGが分泌され、尿で排出されます。尿に含まれるhCG値が25IU/ml以上になると、妊娠反応検査で陽性と判定されます。
当院では、もう少し詳しく尿中hCG値を調べ、25IU/ml程度であれば妊娠4週前後、1000IU/ml程度であれば妊娠5週前後であると推定します。
妊娠4~5週相当で、子宮内腔に胎嚢が認められない場合は、約1週間後に再び超音波検査を行います。もし、2週続けて子宮内腔に胎嚢が認められない場合は、仮に異所性妊娠と思われる自覚症状や超音波所見がなかったとしても、異所性妊娠の疑いとして対応します。

 

 

妊娠初期流産と異所性妊娠を妊娠初期に鑑別することは困難な場合があります。
しかし、異所性妊娠を放置してしまうと、母体の生命に影響を及ぼしてしまう危険性があります。
そのため当院では、確定診断がつかない状況であっても、異所性妊娠が疑わしいと判断した段階で、東京医療センターなどの高次施設へ紹介させて頂いております旨、ご了承下さい。