院長コラム

更年期女性の異常子宮出血への対応

更年期に入ると女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が低下し、月経不順や無排卵周期に伴う不正出血が見られやすくなります。
今回は、「女性内分泌クリニカルクエスチョン90」(診断と治療社)を参考に、更年期女性の異常子宮出血への対応について説明します。

 

診察の流れ

異常子宮出血の診断には、まず腟鏡診と経膣超音波検査を行い、出血部位や子宮内膜の状態を確認し、子宮頚管ポリープ、子宮筋腫などの疾患の有無を調べます。
最も注意が必要な疾患は、子宮頚がんと子宮体がんです。そのため、子宮頚部および体部の細胞診、あるいは内膜組織診により、子宮頚がんや子宮体がんでないかどうかを確認します。
また、ご本人自身が妊娠している事に気が付かないケースもあります。低用量ピル(OC・LEP)や子宮内避妊具(IUD・IUS)を使用しないで性交がある場合は、コンドーム使用の有無にかかわらず、妊娠関連の出血を否定する目的で、妊娠反応検査を行うこともあります。

 

止血のための薬物療法

・止血剤

一時的な出血や少量の持続性出血の場合、内服の止血剤を用います。
当院では通常、1日あたりアドナ錠30mg・トランサミン錠1,500mgを5~7日間処方しています。
出血量が多い場合には、1日あたりトランサミン錠3,000mgを3日間服用して頂くことがあります。

 

・黄体ホルモン製剤

若年から性成熟女性の不正出血に用いることが多いエストロゲン(卵胞ホルモン)・プロゲスチン(黄体ホルモン)配合薬(EP配合薬)は、更年期女性に用いると血栓症のリスクが高まる可能性があるため、当院ではあまり使用しません。
血栓にはエストロゲンが関与しているため、ホルモン剤を用いる時は、内膜増殖を抑制し、血栓症リスクのないプロゲスチン製剤(プロベラ錠5~7.5mg/日)を長期処方します。
また、過多月経を認める場合は、高濃度プロゲスチンを子宮内膜組織に局所的かつ長期的に放出する子宮内システム(ミレーナ)を子宮内に挿入します(5年間有効)。

 

・偽閉経療法

粘膜下筋腫や筋層内筋腫による子宮内腔の圧排により、過多月経や過長月経が見られることがあります。
偽閉経療法とは、皮下注射(リュープロレリン注)や内服薬(レルミナ錠)を用いて、人工的に閉経状態にする治療法です。月経を止めるだけでなく、子宮筋腫を小さくすることも可能です。
ただし、長期間行うと骨粗しょう症のリスクが高まるため、原則として6か月までの使用になります。閉経期に近い女性の場合、6か月の治療終了後、そのまま自然閉経に逃げ込むことも期待できます。

 

 

薬物療法では出血が減少しない場合は、高次施設に紹介する事があります。
施設によっては、子宮内膜アブレーション手術(子宮内膜の焼灼)、子宮動脈塞栓術(出血の元栓を塞ぐ処置)、子宮全摘術などが行われるかもしれません。
更年期に不正出血が認められましたら、是非一度診察にいらして下さい。