院長コラム

授乳中の薬物療法

授乳中のお母さんにとって薬剤服用による赤ちゃんへの影響は、大変気になるところだと思います。赤ちゃんへの悪影響を心配し、原疾患の治療に必要な薬物を服用しないため、原疾患が悪化する方がいらっしゃいます。
その一方、薬剤は服用しますが、母乳への薬剤成分の移行を心配し、授乳せず乳腺炎をきたしてしまう方もいらっしゃいます。
今回は、「妊娠と授乳 改訂2版」(南山堂)などを参考に、授乳期に使用可能な薬剤などについて説明します。

 

 

解熱鎮痛薬

通常、解熱鎮痛薬が乳汁中に移行する量はごくわずかであるため、あまり気にすることはありません。小児の解熱鎮痛薬の第一選択である「アセトアミノフェン(カロナール)」を使用することが無難ですが、アセトアミノフェンの効果は比較的マイルドであり、強い疼痛をコントロールすることは現実的には難しい時もあります。

当院では、ヒトでの乳汁中への移行が報告されていない「ロキソニン」を処方することが多く、疼痛が強い場合には、抗炎症作用・鎮痛作用が強い「ボルタレン」の内服薬・坐薬を使用しています。

解熱鎮痛薬の使用に関する注意として、強いて言えば、超多量の「アスピリン」を内服している母親の母乳を飲んだ児に出血傾向がみられた、との報告があります。通常量であれば問題ないとは思いますが、アセトアミノフェン、ロキソニン、ボルタレンなど比較的安全に使える薬剤が他にもあるのであれば、あえてアスピリンを選択しなくてもいいかもしれません。

 

 

抗菌剤

授乳中に推奨される抗菌剤は、ペニシリン系、セフェム系、アミノグリコシド系、マクロライド系などがあります。

当院では、破水後や分娩後の感染予防のためセフェム系の「メイアクト」を処方しています。また、化膿性乳腺炎や膀胱炎の治療にも用いています。ただし、改善がみられない尿路感染症に対して、ニューキノロン系の「クラビット」を用いることがありますが、薬剤の母乳移行性は低いため、児の摂取量は問題にならないと言われています。

 

 

抗アレルギー剤

アレルギー性鼻炎や皮膚炎など、ある程度長期にわたり服用する必要がある抗アレルギー剤については、授乳に関する情報が少ないのが現状です。ただし、第二世代ヒスタミン受容体拮抗薬といわれている「アゼプチン」「アレグラ」「ディレグラ」「ジルテック」「ザイザル」「クラリチン」などは、比較的安全に使用できるといわれており、当院でも「ザイザル」「アレグラ」などをよく処方しています。

 

 

抗うつ薬・抗精神病薬

産後にうつや不安症をきたす場合、カウンセリングとともに薬物療法が必要になることが多く、授乳を継続するかどうか、迷うことがあります。多くの場合、薬剤の乳汁移行の理由だけで授乳を中止する必要はなく、むしろ授乳というストレスが母体にどのような影響を及ぼすかを考えて、精神科医と相談の上、授乳継続の可否を決定することになります。当院では、メンタルクリニック「クリニックおぐら」の先生方と連携をとることが多く、相談させて頂いております。

ちなみに、当院で処方する事がある抗うつ薬で、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)「レクサプロ」などは授乳中でも安心して服用が可能であり、乳汁分泌促進にも用いられる抗精神病薬スルピリド「ドグマチール」は乳児への有害作用の報告はありません。

 

 

当院では前述の薬剤以外にも、葛根湯(乳腺炎の治療)、補中益気湯(疲労)、キュウ帰調血飲(乳汁分泌不良、抑うつ)といったの漢方薬などを処方する事も多いですが、授乳を中止することはほとんどありません。
原則として、抗がん剤(エンドキサン、アドリアシン、メソトレキセートなど)や放射性物質以外の薬剤は授乳中禁忌ではありません。
授乳継続の可否は、薬剤を処方されている主治医の先生とよくご相談した上で決定しましょう。