院長コラム

妊娠中に認められた卵巣腫瘤の対応

妊娠中に超音波検査で卵巣腫瘤が見つかる頻度は、約5~6%といわれています。
今回は、妊娠中に認められた卵巣腫瘤の対応について、「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」「研修ノート№.85 インフォームド・コンセント」(日本産婦人科医会発刊)などを参考に卵巣腫瘤の診断の流れについて説明します。

 

 

妊娠中は超音波検査によって、腫瘤の形状や大きさを観察し、良性か悪性の評価を行ないます。

① 悪性腫瘍が疑われる時

超音波検査で、卵巣腫瘍の壁の肥厚、内腔への乳頭状隆起、充実部分が認められた場合、悪性腫瘍の可能性があります。その際、血液検査で、CA125,CA19-9、CEAなどの腫瘍マーカー(悪性の場合高値になります)を検査し、診断の参考にします。ただし、CA125は妊娠中、生理的に上昇するため、非常に有用であるMRI検査など、様々な検査結果を総合的に検討し、最終的に診断します。

当院では、超音波検査で大きさや内部所見など、悪性が強く疑われるのであれば、その時点で高次施設や紹介します。もし、あまり決め手となるような画像所見がなければ、腫瘍マーカー検査やMRI検査を行い、腫瘍マーカーが高値であり、MRI検査で悪性所見が認められた場合は紹介させて頂いております。

治療法は、悪性または境界悪性腫瘍と診断された場合、大きさや週数にかかわらず原則として手術療法を行ないます。

 

② ルテイン嚢胞の可能性が高い時

卵巣にある卵胞は、排卵後黄体という組織に変わり、その中に漿液という水分が貯留します。これをルテイン嚢胞といい、通常片側の卵巣に発生します。妊娠中の単房性嚢胞で直径が5cm以下の場合、約80%がルテイン嚢胞などの機能的・生理的な嚢胞であると言われています。もし、ルテイン嚢胞であれば、通常16週までには消失するため、特に治療の必要はありません。

尚、妊娠16週以降も存在している嚢胞の場合は、良性の嚢胞腺腫として扱います。

 

 

③ 良性の卵巣腫瘍と思われる時

妊娠中に発見される卵巣腫瘤の約99%は良性であり、皮様嚢腫、ルテイン嚢胞、子宮内膜症性嚢胞、嚢胞腺腫などが多くを占めています。妊娠中の良性卵巣腫瘍の対応については確立されたものはありませんが、産婦人科ガイドラインでは、以下のような基準が記載されています。

○直径6cm以下:経過観察

○直径10cm以上:破裂・分娩時障害の頻度。悪性腫瘍の可能性が高めるため、手術療法が勧められます(妊娠12週以降)。

○直径6~10cm:単房嚢胞性の場合は経過観察、悪性所見が疑われるときは手術を考慮します。

尚、妊娠中に卵巣腫瘍が捻転・破裂した場合は週数によらず手術になる場合が多く、卵巣腫瘤が分娩の障害となってしまった場合は、緊急帝王切開となる可能性があります。

当院では、10cm以上の卵巣腫瘤が認められた場合、その時点で高次施設医へ紹介します。6~10cmの場合も、増大傾向がみられれば紹介を考慮します。

 

 

当院では、妊娠初期に卵巣腫瘤の有無を確認するように心がけていますが、当初小さくても、次第に増大するケースがあります。
妊娠後期になると、超音波では卵巣腫瘤を確認することが困難になるため、必要に応じてMRI検査も行っています。
もし、高次施設での周産期管理が望ましいと判断した場合、東京医療センター、日赤医療センター、昭和大学病院、慶応義塾大学病院などへ紹介させて頂く旨、ご了承下さい。