院長コラム

母乳育児のすすめ

8月1日~7日はユニセフとWHO(世界保健機構)が制定した「世界母乳育児週間」です。世界各国で、母乳育児の促進と栄養改善を目指した取り組みが行なわれているとの事です。
今回は、母乳育児の利点について「ペリネイタルケア2019年3月号」「ベッドサイドの新生児の診かた 改定3版」(南山堂)などを参考に説明します。

 

 

母乳の成分

母乳は約88%の水分と炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラル、細胞成分などの固形成分から成っており、栄養はもちろん、感染防御や神経発達にも重要な働きをしています。

 

○ 炭水化物

乳糖は炭水化物の中でも最も多く含まれている成分で、エネルギー源になるほか、カルシウムの吸収を促し、脳神経細胞の発育にも影響を及ぼします。また、母乳に含まれるオリゴ糖は腸内細菌のバランスを整える作用を持ち、腸内感染症の予防に役立っています。

 

○ 脂肪

脂肪は児の成長と発育に必須であり、特に母乳に多く含まれている多価不飽和脂肪酸(DHAなど)は中枢神経や視神経の発達に大変重要な役割を果たしています。

 

○ タンパク質

母乳中には様々なタンパク質が含まれていますが、特に初乳に多く含まれている分泌型IgAという免疫グロブリンは、胃酸に分解されることなく腸管全体に広く分布し、細菌やウイルス感染を防御しています。

 

○ ビタミン、ミネラル

脂溶性ビタミン(A,D,E,K)、水溶性ビタミン(C,B1,B6,B12)、カルシウム、リン、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラルが含まれています。特に母乳中のカルシウム、マグネシウム、鉄は人工乳中のそれらよりも吸収されやすいとのことです。

 

 

母乳育児の児へのメリット

母乳栄養が児に与えるメリットは、以下のような疾患のリスクが低下することです。

・ 中耳炎      50%減 
・ 気道感染症    60-70%減
・ 喘息       25-40%減 
・ アトピー性皮膚炎 25-40%減
・ 胃腸炎      65%減
・ 炎症性腸疾患   30%減
・ 肥満       25%減
・ 糖尿病      30-40%減
・ 白血病      12-20%減

その他、乳幼児突然死症候群の調査では、母乳哺育でない子どものリスクを1としたとき、少しでも母乳を飲んでいる子どもは0.5、2か月以上母乳を飲んだ子どもは0.4、母乳だけを飲んだ子どもは0.25までリスクが低下すると、報告されています。

また、認知能力では、母乳を飲んでいた子どもの6.5歳時のIQが、飲んでいなかった子どもよりも7.5倍高かったという報告もあります。

 

 

母乳育児の母親へのメリット

乳頭の刺激により子宮収縮が促進されるため、産後出血の減少や子宮復古の促進に役立ちます。また、妊娠中は皮下脂肪と内臓脂肪が増え、血清脂質も上昇しますが、母乳育児を行なうことにより産後の代謝がリセットされ、産後の体重減少が促進されます。

更に母乳育児が、閉経前の乳がん・卵巣癌がん・子宮体がん、高血圧、脂質異常症、心筋梗塞、2型糖尿病、閉経後の骨粗鬆症、大腿頚部骨折、関節リウマチなどの予防に関与しているとも言われています。

 

 

当院では積極的に母乳育児を推奨しており、産褥期は母乳外来を中心に堤式乳房マッサージ法認定者がサポートしております。
ただし、授乳婦さんの体調や乳房の状態、ご家庭やお仕事の状況などを考慮し、母乳育児が困難な場合は、決して無理強いすることはせずに、臨機応変に対応致します。
尚、当院の母乳外来は完全予約制となっている旨、ご了承下さい。