院長コラム

思春期女性の月経困難症に対するホルモン療法

初経を迎えて3年以内に発症することが多い月経困難蹠を「機能性月経困難症」といい、子宮筋の過度な収縮が月経痛の主因と考えられています。
子宮を収縮させるプロスタグランディン(PG)という物質の産生を抑える鎮痛剤が、治療薬として広く用いられています。ただし、そもそもPGは子宮内膜から分泌されるため、鎮痛剤があまり有効でない場合、「子宮内膜を薄くすることでPG産生を抑える治療法」が第1選択となっています。
子宮内膜を薄くするにはホルモン療法が有効であり、思春期女性に対して用いるホルモン剤には、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤)とプロゲスチン製剤の2種類があります。
今回は、それぞれの薬剤の特徴と当院での考え方について説明します。

 

LEP製剤(ヤーズフレックス配合錠など)は何歳から服用できるのか?

LEP製剤は、強く排卵を抑制し、子宮内膜の増殖を抑える作用があり、避妊に用いる低用量ピルと同じ成分となっています。
そのためLEP製剤は、妊娠を希望していない若年女性の月経困難症治療薬として広く用いられていますが、初経発来前の方には使用することはできません。
というのも、LEP製剤に含まれているエストロゲンという女性ホルモンの影響で、骨が伸びなくなってしまうからです。初経を迎えた後であれば、エストロゲンを服用しても骨の成長が止まることがなく、身長の伸びは影響されないといわれているため、理論上は初経を迎えた女子であれば、年齢に限らず使用可能です。
ただし、思春期女性の骨代謝とエストロゲンとの関係については不明な点も多いのが現状です。一般的には、15歳頃に骨の成長が終了すると考えられているため、少なくとも15歳以降であれば、より安心して使用することができると思われます。

 

思春期女性にプロゲスチン製剤(ジェミーナ錠)は使用可能か

プロゲスチン製剤にはエストロゲンが含まれておらず、骨の成長に影響を及ぼさないため思春期女性に対しても使用可能です。もちろん、月経困難症に対する治療薬ですので初経後に使用します。
ジェミーナ錠0.5mgは、子宮内膜の増殖を抑える作用と排卵を抑制する作用があり、月経痛に対する効果はLEP製剤と同等と考えられています。
ただし、排卵抑制効果はLEP製剤程ではなく、“確実な避妊薬”として使用することはできません。もし、避妊も考えるのであれば、コンドームの使用は必須です。

 

当院でのLEP製剤・プロゲスチン製剤の使い分け

  • 15歳未満の方

エストロゲンの骨成長への影響を考え、

ディナゲスト錠0.5mg 1日2回 

を第1選択としています。
ただし、数か月の使用でも効果が改善しない場合や、月経前症候群も見られる場合にはLEP製剤に切り替えることがあります。

 

  • 15歳以上の方

ほぼ100%の避妊効果を持つLEP製剤の中でも、月経前症候群やにきびの改善効果も期待できる、

ヤーズフレックス錠 1日1回

を第1選択としています。
ただし、血栓症などが疑われる場合には、ディナゲスト錠0.5mgへ切り替えることがあります。

 

思春期の機能性月経困難症を放置すると、将来子宮内膜症になるリスクが高くなるといわれています。
LEP製剤・プロゲスチン製剤ともに、現在の月経困難症の治療だけでなく、将来の子宮内膜症予防にも大変有効です。
当院では思春期の月経困難症に対して、ご本人と保護者の方にご承諾を頂いた上で、ホルモン治療を積極的に行っています。