院長コラム

当院におけるB群溶連菌陽性の妊婦さんの管理

B群溶連菌(B群溶血性連鎖球菌:GBS)は、経腟分娩の際、母体から児へ感染する可能性がある細菌です。新生児に敗血症や髄膜炎などの重篤な感染症を引き起こすこともあるため、GBS陽性妊婦さんに対する分娩時の管理は非常に大切です。
今回は、「産婦人科診療ガイドライン 産科編2017」「母子感染」(金原出版)を参考に、当院におけるGBS陽性妊婦さんの管理について説明します。

 

 

GBSと妊婦

GBS陽性の妊婦さんの頻度は一般的に10~30%といわれており、当院でも約10~15%となっています。

一般にGBSは下部消化管で繁殖し、泌尿生殖器系への感染と進展します。妊婦さんの場合では、子宮内感染から早産になる危険性や膀胱炎など尿路感染症をきたす可能性があります。しかし、分娩時に母体から児へ感染すること(垂直感染)の方がはるかに危険です。

 

 

母体のGBS検査

2017年度のガイドラインでは、妊娠35~37週にGBS培養検査を行うこととなっています。分娩時の産道内GBSの存在予測のためには、分娩前5週間以内での検体採取が望ましいとのことです。採取部位は、検体は腟入口部ならびに肛門内から採取することが推奨されています。

当院では、原則として妊娠35週の妊婦健診の際に、腟入口部と肛門部に細い検査用の綿棒を挿入し検体を採取しています。また、当院では妊娠20週頃、あるいは帯下増量・異臭がみられた場合に腟培養検査を行なっていますが、偶然にGBSが認められたとしても妊娠中に治療はしていません。その場合は、妊娠35週の健診の際に再検し、GBSの有無について改めて確認します。

 

 

GBS陽性妊婦の抗菌剤投与の適応

GBS陽性妊婦さんから児への垂直感染を予防するため、以下の場合には母体に抗菌剤を投与します。

① 妊娠35~37週の腟内・肛門内の培養検査でGBSが陽性。
② 重症GBS感染児の分娩歴がある。
③ 今回の妊娠中の尿培養で偶然GBSが陽性。
④ 培養検査結果が不明あるいは未施行で、破水後18時間以上経過、または38度以上の発熱がある。

尚、妊娠中期の腟培養検査でたまたまGBSが陽性であった場合でも、妊娠35週の再検で陰性であれば分娩中の抗菌剤投与は省略することがあります。ただし、再検結果が分娩までに間に合わなかった場合には、GBS陽性妊婦さんとして対応します。

 

 

抗菌剤投与の実際

○ 通常の場合

GBSに効果があるペニシリン系の抗菌剤、アンピシリン(ビクシリン)が第I選択となります。児への予防効果を期待するには、母体に初回投与してから、4時間以上経過してからの分娩が望ましいといわれています。

投与法:
陣発または破水後、ビクシリン2g+生理食塩水100ml点滴投与
その後4時間毎に分娩までビクシリン1g+生理食塩水100ml点滴投与
または、6時間毎に分娩までビクシリン2g+生理食塩水100ml点滴投与

 

○ 母体がペニシリンアレルギーの場合

原則として、ペニシリンアレルギーの可能性が高い妊婦さんは当院での分娩管理はできないため、予め妊娠初期の段階で高次施設へ紹介しております。ただし、ペニシリンアレルギーが否定できないながらも可能性は低い場合は当院で分娩管理することがあり、その際はセファゾリン(セファメジン)を使用します。

投与法:
陣発または破水後、セファメジン2g+生理食塩水100ml点滴投与
その後8時間毎に分娩までセファメジン1g+生理食塩水100ml点滴投与

 

 

児がGBSに感染し、重篤な状態になることは稀ではありますが、適切な分娩時の抗菌剤投与によるGBS垂直感染予防は非常に重要です。
分娩時間が長くなると、抗菌剤点滴投与の回数も増えてしまいますが、ガイドラインに則った管理を心掛けております旨、ご了承下さい。