院長コラム

児の食物アレルギー予防のために、妊婦・授乳婦の食物除去は原則必要なし

以前は児の食物アレルギーを予防する目的で、妊娠中や授乳中の母親の過剰なまでの食物除去が行なわれていたそうですが、最近では考え方が変わってきているようです。
今回は、「東京産婦人科医会誌 第52号」に掲載されております帝京大学医学部小児アレルギーセンターの先生のお書きになられた「食物アレルギーの予防と治療 update」などを元に、児の食物アレルギーについて情報を共有したいと思います。

 

 

食物アレルギーとは

食物アレルギーとは原因食物(アレルゲン)を摂取した後に、免疫系の働きにより種々の不快な症状が出現することを言います。

食物アレルギーの症状は多彩で、皮膚、粘膜、消化器、呼吸器、神経、循環器などに出現し、重症で複数の臓器に症状が出現した場合をアナフィラキシーといいます。特に循環器症状(ショック)、呼吸器症状(上気道・末梢気道閉塞)、神経症状(意識障害)は生命にかかわるため、緊急の対応が必要です。

原因は鶏卵と牛乳が過半数(乳児では8割)を占め、小麦、ナッツ、甲殻類などが続きます。頻度は乳児で5~10%ですが、幼児で5%、学童期以降は1.5~3%と年齢とともに減少するとの事です。

 

 

妊娠・授乳中の食物摂取とアレルギー

最近の研究では、母親が妊娠中や授乳中に食物除去を行なっても、児のアレルギー疾患の発症リスクは減少しないと考えられています。むしろ、食物除去は十分な栄養が摂取できないというデメリットがあるだけでなく、児が30歳になった時点での気管支喘息のリスクが増加するとの報告があります。

 

 

離乳食について

アレルギー発症の危険を減らすために離乳食を遅らせるということが、かつて行なわれていたそうです。現在では離乳食を遅らせることは逆効果で、むしろ食物アレルギーのリスクを増加させる可能性があるとの事です。特に卵やピーナッツは生後4~6ヵ月頃から摂取し始めることを勧める意見が多いようです。生後3~7ヵ月の児の腸は食物を受け入れられるようになっており、食物に対する免疫力を一旦弱め、アレルギーの発症を予防すると考えられています。

 

 

スキンケアの重要性

食物アレルギーの原因として、炎症の起こっている皮膚から食物アレルゲンが侵入すると、アレルギーが誘発される(経皮感作)という考えが注目されているそうです。アトピー性皮膚炎の存在が食物アレルギー発症の重要な要因であると考えられており、アトピー性皮膚炎の治療を行なって、皮膚のバリアを改善することが感作予防に重要といわれています。

 

 

食物アレルギーの予防

適切な時期(生後6か月ごろ)に離乳食を開始することや、保湿剤による児のスキンケアにより皮膚のバリアを良好に保つことが重要のようで、妊婦・授乳婦の食物除去は予防にはなりません。

また、ある報告によると、母体が積極的に果物、野菜、魚、ビタミンDが豊富な食品を摂取していると児のアレルギー発症は低下し、母田がマーガリン、ファストフードを積極的に摂取していると児のアレルギー発症が増加したとの事です。

 

 

食物アレルギーの予防に関しては不明な点も多いようですが、妊娠中・授乳中の食物除去は原則必要なく、バランスのとれた食事に心がけ、ジャンクフードをなるべく避けることがいいようです。また、離乳食は遅らせず、児のスキンケアを心掛けましょう。