院長コラム

当院における前期破水の管理

陣痛が始まる前、つまり分娩の準備が整っていないうちに、卵膜の一部が破れて羊水が流出することを前期破水といいます。全分娩の5~10%にみられ、その内妊娠37週未満の早産は20~30%、正期産は70~80%と言われています。
前期破水の管理は週数や施設によって大きく異なり、母児の予後に大きな影響を及ぼします。
今回は、「研修ノート 前期破水の管理」(日本産婦人科医会)、「産婦人科診療ガイドライン 産科編2017」などを参考に、当院における前期破水の管理について説明します。

 

 

前期破水の診察の流れ

破水感を認めた妊婦さんの診察では、まず腟鏡で羊水流出の有無を確認し、不明瞭な場合は検査紙を用いて診断します。その際、羊水混濁や血性羊水の有無、臍帯脱出がないかも確認し、感染の助長に注意しながら内診で子宮口を診察します。

続いて、経腹超音波検査で胎児の発育状態、羊水量などを確認しながら、胎児心拍、母体の血圧・脈拍、体温などをチェックします。その後、分娩監視装置を装着し、胎児の状態や子宮収縮を確認します。

母体の体温が38度以上、母体心拍が100/分以上、羊水の異臭や子宮の圧痛が認められた場合、母体の血液検査を行い、母体の感染(臨床的絨毛膜羊膜炎)の有無・程度を確認します。

次に、当院における週数別の対応について説明します。

 

 

妊娠22週未満の場合

妊娠22週未満の分娩では児が育つことができないため、破水後自然に陣発するのを待機するか、感染予防のため人工的に分娩誘発をします。ただし、妊娠22週に近い週数の場合、周産期センター(日赤医療センター、国立成育医療センター、昭和大学病院、慶應義塾大学病院など)への母体搬送を考慮します。

 

 

妊娠22週以降、36週未満の場合

診断がつき次第、子宮収縮抑制剤や抗生剤の点滴投与を開始し、周産期センターへの母体搬送を手配します。

 

 

妊娠36週の場合

当院では、妊娠36週以降で、推定体重2300g以上あり、母児ともに異常がない場合は分娩管理しております。ただし、もし絨毛膜羊膜炎の可能性が高いときには、周産期センターへ母体搬送致します。

感染徴候がなく、すぐに陣痛が発来しない時には、子宮収縮抑制剤や抗生剤の点滴投与を開始し、陣発するまで、あるいは37週に至るまで当院にご入院頂き、切迫早産管理を行なうことがあります。その後、子宮収縮抑制剤を中止し、自然陣発を待つか、人工的に分娩誘発するか検討します。

 

 

妊娠37週以降の場合

ある研究によると、破水後48時間以上経過してから分娩になった児は、24時間未満で分娩になった児と比較して新生児感染症の発症率が高いとの事です。当院では、絨毛膜羊膜炎や羊水過少による胎児機能不全の予防のため、破水後数時間以内、遅くとも24時間以内に自然に陣痛が発来しなければ、分娩誘発を積極的に行なっています。ただし、正期産であっても、絨毛膜羊膜炎が悪化し、胎児胎盤機能不全が認められた場合で、分娩まで時間がかかりそうな時には周産期センターへ母体搬送となります。

 

 

前期破水における分娩誘発法

前期破水の方のほとんどは頚管が未熟であり、分娩を誘発するには、まず頚管を熟化させる必要があります。未破水の妊婦さんの場合は、ミニメトロを用いた器械的熟化処置を行ないますが、前期破水の妊婦さんの場合、器械的熟化処置により絨毛羊膜炎や臍帯脱出のリスクを高める可能性があります。

そこで当院では、できるだけミニメトロは用いずに、頚管熟化作用と子宮収縮作用の両方を併せ持つ「プロスタグランディンE2錠」の内服から開始します。その後の頚管熟化の具合や子宮収縮の程度に応じて、子宮収縮薬であるオキシトシンに切り替えるようにしています。

 

 

前期破水の対応は、妊娠週数、破水からの経過時間、胎児の状態、絨毛膜羊膜炎の程度、頚管熟化度などによって、めまぐるしく変わることがあります。
当院では妊婦さんとご家族に対し、母児の状況や治療方針など、丁寧でわかりやすい説明をスタッフ一同心掛けて参ります。