院長コラム

当院における産科出血の対応

お産を取り扱う施設にとりまして、いかに出血を抑えるか、危機的出血になった場合はどのように対応するかが、大変重要な課題です。当院は産科医1人の小規模施設であるため、常日頃から助産師と連携を密にして、安全な分娩を目指しています。
今回は、当院における産科出血の対応についてお伝えします。

 

 

大量出血のリスクがある妊婦さんの対応

前置胎盤・低置胎盤、巨大子宮筋腫合併妊娠、多胎妊娠など、大量出血のリスクが大きい妊婦さんは、あらかじめ妊娠中に高次施設(東京医療センター、日赤医療センター、国立成育医療研究センターなど)へ紹介させて頂いています。
胎児が巨大児の場合、難産のリスクだけでなく産道裂傷による出血や分娩後の弛緩出血をきたす可能性があるため、当院では胎児の推定体重が4,000g以上になる前に、陣痛促進剤による計画分娩を検討しています。

 

 

分娩時の大量出血への備え

大量出血のリスクが少ない妊婦さんでも、産道の裂傷や弛緩出血のリスクは常に存在します。
当院では、分娩室に入りましたら全例に太目の針で血管を確保し点滴を入れます。また、いつでも血圧や心拍数などを自動的にモニタリングできるように準備します。
その他、万が一の大量出血に対する処置に必要な薬剤・器材なども準備しておきます。

 

 

分娩時の対応

助産師の丁寧な会陰保護と医師による適切な会陰切開により、できるだけ産道出血を防ぐようにしています。
分娩直前には、児の娩出後に子宮収縮を促すため、確保している点滴に子宮収縮剤(オキシトシン)を混注します。
児の娩出後、早めに胎盤を娩出することが出血量を抑えることに有効と言われています。ただし、臍帯を強く牽引し過ぎると、臍帯がちぎれてしまったり、子宮内反症をきたす危険性もあるため、丁寧に胎盤娩出処置を行ないます。
胎盤娩出後、タオルを巻いたアイスノンを下腹部にのせ、子宮体を冷やしながら輪状にマッサージを行ないます。同時に、子宮内の裂傷の有無を確認し、卵膜・悪露を排出しながら、両手で子宮体を挟み込むように圧迫します。多少痛みを伴うこともありますが、止血のための大切な処置ですのでご了承下さい。

 

 

出血が多くなりそうな場合の対応

血圧や脈拍をモニターし、酸素マスクで酸素を投与しながら、出血の原因を確認します。もし、産道裂傷からの出血が確認された場合は、縫合して止血します。ただし、裂傷が深い場合、ドレーンという軟らかな管を留置することがあります。出血の状況を確認し、異常なければ後日ドレーンを抜去します。
もし子宮収縮が弱い弛緩出血の場合は、点滴に「オキシトシン」を追加し、点滴の滴下スピード上げます。また、別のタイプの子宮収縮剤を肩に筋肉注射することもあります。さらに、止血効果のある「トランサミン」を静脈注射します。
以上の処置でも出血が収まらないときは、もう片側の腕の血管を太目の針で確保し、点滴を全開で滴下します。子宮収縮が不良の場合は「オキシトシン」を混注します。
また、尿量を確認する目的、および膀胱を空にして子宮収縮を促す目的で、尿道口からハルンカテーテルを入れて留置します。違和感があるかもしれませんが、出血がおさまり尿量も異常なければ抜去します。

 

 

危機的出血になることが予想される場合

さらに出血が増量し危機的出血になることが予想される場合、当院での対応は困難であると判断し、「スーパー母体搬送」などの周産期ネットワークを利用し、高次施設へ母体救急搬送を要請します。この判断は、危機的な状況になる前に、ゆとりをもって行なうことを心掛けています。

 

 

通常と異なる緊急対応をする場合は、ご本人やご主人に対して、状況や方針をできるだけわかりやすくお伝えするように心掛けています。
ただし、スタッフが少ない真夜中の時間帯では、緊急処置、高次施設への連絡、救急車の手配などを優先するため、すぐには詳しく説明できないこともあるかもしれません。
そのような場合、状況が落ち着き次第、改めてご説明させて頂きますので、ご了承下さい。