院長コラム

当院における更年期以降の子宮内膜症の管理

子宮内膜症は月経困難症、不妊の原因となることが知られており、特に挙児希望のある方にとっては非常に重要な疾患です。
一般的に、閉経以降、つまり月経が終了すれば子宮内膜症は軽快していきますが、閉経までの月経困難症の管理や、閉経後の卵巣チョコレート嚢胞の経過観察も大切です。
今回は、当院における更年期以降の子宮内膜症の管理について説明します。

 

卵巣チョコレート嚢胞を認める場合

多くの卵巣チョコレート嚢胞は良性ですが、まれにがん化することが知られています。特に40歳以上の方で、卵黄チョコレート嚢胞の大きさが4㎝以上であると、がん化のリスクが高まります。
当院では超音波検査やMRI検査、腫瘍マーカ検査などで卵巣嚢胞を経過観察しています。
もし、これらの検査で悪性の可能性が低い場合であっても、卵巣チョコレート嚢胞が4㎝を超える増大傾向が認められるのであれば、精査や外科的治療が可能な高次施設(東京医療センター、東邦大学医療センター大橋病院、慶應義塾大学病院など)へ紹介しております。

 

月経困難症・慢性骨盤痛が強い場合

大きな卵巣チョコレート嚢胞がみられず、必ずしも手術の適応とは言えない場合は、薬物療法を行います。
20~30代でよく用いられる低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)ですが、40歳以上の方にとっては血栓症のリスクを高めます。
そのため、血栓症リスクがなく、子宮内膜組織の増殖を抑える黄体ホルモン製剤(ディナゲスト錠)、あるいは人工的に閉経状態にさせる偽閉経療法(内服薬:レルミナ錠、皮下注射薬:リュープロレリン1.88注など)を自然閉経まで使用することが一般的です。
ただし、偽閉経療法の場合、長期にわたって使用すると骨量が低下し、骨粗しょう症のリスクが高まるため、原則として6か月間の使用に制限されています。
一方ディナゲスト錠は、一日二回の服用が必要で、服用開始後数か月は不正出血を認めることが少なくありません。
当院では、50歳前後の方に対しては偽閉経療法を第一選択とし、治療後は自然閉経へ逃げ込む方針とすることが多いです。自然閉経まで数年以上あると思われる方に対しては、性器出血を管理しながらディナゲスト錠を第一選択とする場合が一般的です。
また、偽閉経療法後にディナゲスト錠へ切り替えると、性器出血の頻度が減少するとの報告もあるため、実際の臨床現場では、患者さんと相談しながら最善の薬物療法を探っています。

 

閉経後であっても、卵巣チョコレート嚢胞がある場合は定期的な診察が必要です。また、更年期障害や閉経後骨粗しょう症に対してホルモン補充療法を行う場合は、子宮内膜症病変が悪化しないように注意しています。尚、子宮内膜症は心血管障害リスクを高めると言われていますので、子宮内膜症の既往がある方は、定期的な内科的健康診断を受けることや、内科かかりつけ医を持つことをお勧めします。