院長コラム

当院における新生児低血糖の対策

新生児の低血糖は発達予後に関係するため、その管理は非常に重要です。
今回、新生児低血糖に関する情報を共有致します。

 

 

新生児低血糖の症状

血中ブドウ糖は脳の細胞に必須であるため、低血糖により以下に示すような様々な症状をきたす可能性があります。

      《主な低血糖症状》

哺乳障害・活動性低下・筋緊張低下・無呼吸・嗜眠傾向・異常な啼泣・易刺激性・けいれん・皮膚蒼白・多汗・多呼吸・頻脈など

 

 

低血糖の診断と治療

1. 症候性低血糖

低血糖症状があり、血糖値が40mg/dl未満のものを症候性低血糖といいます。通常、ブドウ糖の静脈内投与で速やかに改善します。

 

2. 無症候性低血糖

低血糖症状がみられない場合、生後の時間毎の血糖値によって、対応が変わってきます。
生後1時間の血糖が25mg/dl未満の場合は、ブドウ糖の点滴を開始します。
25mg/dl以上の場合は経過観察し、生後2時間が25~40mg/dlの場合は哺乳・人工乳追加、あるいはブドウ糖の点滴を行います。

 

 

新生児が低血糖になりやすい状況

○ 母体因子:糖代謝異常

糖尿病合併妊娠(妊娠前にすでに診断されている糖尿病)・妊娠中の明らかな糖尿病・妊娠糖尿病(妊娠中の精査により診断)の母体で、妊娠後期になっても血糖がコントロールできていない状態は、新生児が低血糖に陥る可能性が極めて高いです。
母体が高血糖の場合、血糖を低下させるインスリンというホルモンが過剰に分泌されます。インスリンは胎盤を通過することができるため、容易に胎児へ移行します。その移行したインスリンは胎児の血糖を低下させてしまい、新生児低血糖を引き起こす可能性があります。

 

○ 胎児・新生児因子

出生体重が、基準値の下位10%以下の小さい新生児、基準値の上部10%以上の大きな新生児、2500g未満の低出生体重児、4000g以上の巨大児、妊娠37週未満の早産児の場合、新生児低血糖のリスクとして注意が必要です。

 

 

当院での新生児低血糖の管理

○ リスクの把握
母体因子としては、糖代謝異常の有無を確認します。当院では、妊娠糖尿病の方は、原則として妊娠中に高次施設へ紹介しますが、栄養指導のみで血糖コントロールが可能な方は、当院での分娩をお引き受けする事があります。
また、胎児因子としては、妊娠週数や胎児の推定体重を確認し、リスクの有無をあらかじめ確認します、

○ 出生時体重の計測
出生後は新生児の体重を計測し、リスクの有無を確認します。

○ 新生児診察
低血糖症状の有無を確認します。もし、症状が認められれば、速やかに血糖を測定します。

○ 出生2時間の血糖測定
低血糖症状がみられない場合でも、低血糖のリスクがある新生児の場合は、出生2時間の血糖を全例測定します。その血糖値が46mg/dl以上であれば通常の新生児管理で対応します。

○ ブドウ糖投与
もし、出生2時間の血糖値が46mg/dl未満であれば、低血糖症状がなくても早めにブドウ糖を経口投与し、その後も定期的に血糖を測定し、厳重に経過観察します。

○ 新生児搬送
低血糖症状が認められる場合や、ブドウ等の経口投与でも血糖の上昇が見られない場合は高次施設(日赤医療センター、国立成育医療研究センター、昭和大学病院、慶応義塾大学病院など)の新生児科(NICU)へ救急搬送致します。

 

 

実は、新生児低血糖症の管理に関する全国共通のガイドラインはありませんが、新生児科専門の先生の文献などを参考に、当院で対応可能なマニュアルを策定しました。
今後も新しい情報を取り入れながら、更にバージョンアップして参ります。