院長コラム

不定愁訴と漢方療法

不定愁訴とは、症状はあるにもかかわらず、検査しても異常が見つからない状態をいい、症状が多岐に渡り、主観的であることが特徴です。いわゆる西洋医学的な対応では、症状の原因がはっきりしないため、治療に苦慮することが少なくありません。一方、漢方療法などの東洋医学的な対応は、症状から治療法を選択することが中心となるため、不定愁訴には漢方療法が適しているといわれています。
以前発行された医療雑誌「White」(メディカルビュー社)に漢方専門医の先生がお書きになられた「女性と不定愁訴」という記事が掲載されていました。今回はその記事から、女性の不定愁訴に用いられる主要6つの漢方薬について、そのポイントをお伝えしたいと思います。

 

 

1. 六君子湯

《効能・効果》
胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷やすいいものの次の諸症:
胃炎、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐

《ポイント》
悪心・嘔吐を止めて胃腸の蠕動を調節する働きがあるため、上記のような胃の症状が強い時の第1選択薬です。その他、鎮咳去痰作用もあるため、痰がからむ、しつこい咳、喉が詰まるなどの慢性呼吸器症状にも有効です。

 

2. 補中益気湯

《効能・効果》
消化機能が衰え、四肢倦怠感が著しい虚弱体質者の次の諸症:
夏痩せ、病後の体力増強、食欲不振、胃下垂、感冒、子宮下垂、多汗症

《ポイント》
微熱でだるい、精神的にも下向き、気力がないといった精神症状に有効で、疲れることが予測できるときは、疲れる前に予防的に服用することも可能で、速効性が期待できます。

 

3. 帰脾湯

《効能・効果》
虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:
貧血、不眠症

《ポイント》
昼間は眠くぼんやりするのに夜は寝つきが悪い、たくさん夢を見る、熟睡感がない、朝起きにくい、不安感や悲哀感が強いなど、精神症状が多い方に適しています。

 

4. 加味帰脾湯

《効能・効果》
虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:
貧血、不眠症、精神不安、神経症

《ポイント》
上記の帰脾湯の適応に加えて、いらいら、すぐ怒る、のぼせ、ホットフラッシュ、情緒不安定の方に有効です。

 

5. 加味逍遥散

《効能・効果》
体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:
冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害

《ポイント》
食欲不振、無気力、鬱々した気持ちに効果があります。特に肩凝り、頭重感、ホットフラッシュを認める更年期女性に多く用いられています。

 

6. 抑肝散

《効能・効果》
虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症

《ポイント》
ストレスの域値が低下し、いらいらが強い方が適応になります。特に胃腸が弱い方には「抑肝散加陳皮半夏」を処方することがあります。

 

 

漢方薬は長く飲まないと効かない、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、不定愁訴に対しては速効性が期待でき、飲み始めてすぐに調子が良くなる方もいらっしゃるようです。
体調が改善したら適宜休薬や減量など自己調整できるため、漢方薬は女性の日常生活を陰から支えるサポーターと言えるでしょう。