院長コラム

当院における子宮内膜症の薬物療法

子宮内膜症の治療は手術療法と薬物療法に分けられます。卵巣チョコレート嚢胞が大きい場合、悪性が否定できない場合、すぐに妊娠を希望されている場合は、手術療法を選択することが多いため、精査・加療目的で高次施設へ紹介します。
それ以外のケースでは薬物療法を選択することが多いため、当院でも対応しています。
今回は子宮内膜症の薬物療法について、「基礎からわかる女性内分泌」(診断と治療社)を参考に説明します。

 

 

子宮内膜症の疼痛に対する対症療法

子宮内膜症で最も多い症状は、月経時の下腹部痛、腰痛などの月経痛です。また、月経以外の下腹部痛や性交痛も少なくありません。つまり、いかに疼痛をコントロールできるかが、治療ポイントになります。

 

○ 非ステロイド系消炎鎮痛剤

痛みの原因となるプロスタグランディン(PG)の産生を抑えるため、消炎鎮痛剤が第I選択になります。当院では、ロキソニン、ボルタレンなどを主に使用しています。服薬のタイミングとして、月経が開始する前から服用するとより効果的です
ただし、長期間服用することで胃腸障害をきたすことがあるため、あくまでも短期的な服用が望まれます。
実際は、子宮内膜症による月経困難症に対して、鎮痛剤だけで治療できる方は少なく、当院でも他の薬物療法に併用するケースがほとんどです。

 

○ 漢方療法

月経困難症に対してよく用いられる漢方薬に、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸などがあります。体格やその他の症状を検討して薬剤を決定しますが、機能性月経困難症と異なり、子宮内膜症による月経困難症に対しては、漢方療法のみで症状が改善することは少ない印象があります。

 

 

疼痛管理と卵巣チョコレート嚢胞縮小効果が期待できるホルモン療法

最も子宮内膜症による月経困難症に有効であるのがホルモン療法であり、薬物療法の柱になります。ホルモン療法には大きく3種類あり、年齢、妊娠希望の有無、症状の強さなどを考えて、治療薬を選択します。

 

1)低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)

LEPは避妊に用いる経口避妊薬(OC)と同じもので、排卵を抑え、子宮内膜を薄くする作用があります。痛み物質のPGは子宮内膜組織で産生されるため、子宮内膜組織の増殖を抑制することでPGの産生を減少させ、疼痛を軽減させます。また、子宮以外の腹膜や卵巣に存在押している子宮内膜類似組織の増殖を抑制することも期待できます。
当院では、「ヤーズフレックス錠(最長120日連続)」「ジェミーナ錠(最長77日連続)」などを用いることが多く、できるだけ月経を起こさせないように連続投与をしています。

 

2)黄体ホルモン剤

黄体ホルモンには子宮内膜組織の増殖を抑制する作用があり、中でも「ディナゲスト錠」の効果はLEPよりも高いため、LEPが奏効しない時に切り替えることもあります。
ただし、「ディナゲスト錠」の副作用として多量の子宮出血をきたす可能性があるため、あえてLEPや偽閉経療法を数か月施行し、子宮内膜を薄くさせてから「ディナゲスト錠」に切り替えことも多いです。

 

3)偽閉経療法

人工的に閉経にすることで無月経の状態にし、腹膜や卵巣に存在している子宮内膜類似組織の増殖も抑制します。非常に効果は高いのですが、副作用として更年期障害や骨粗鬆症があるため、6か月までしか使用することはできません。40代後半の方が自然閉経までの逃げ込み療法として用いることが主流です。
当院では「リュープロレリン1.88(皮下注)」「スプレキュア(点鼻薬)」などを用いています。尚、副作用の更年期障害が強いときには漢方薬などで対応することがあります。

 

 

子宮内膜症は手術療法後、高い頻度で再発することが知られています。そのため、術後に薬物療法へ移行することが、現在では一般的になっています。
このことは、手術療法を行なう高次施設と薬物療法を行なうクリニックとの連携が、子宮内膜症の治療には不可欠であることを意味しています。
当院も、地域医療における役割を十分に果たせるように、日々の診療に取り組んで参ります。