院長コラム

女性のライフステージと漢方療法

漢方医学は、患者さんの心と体の全体に作用することで効果を発揮するといわれています。様々な生薬の作用により、中枢神経と自律神経のバランスを調節し、各臓器の微小循環を整えることで、内臓全般の機能やホルモン分泌などを改善させます。
今回は、「産婦人科漢方研究のあゆみ 2019」(産婦人科漢方研究会)に筑波大学附属病院総合診療科の先生がお書きになられた「女性のトータルケアに役立つ漢方治療」を参考に、当院における漢方療法について説明致します。

 

 

女性と漢方

女性は男性と比べて、生理学的特徴の大きな違いがあります。女性には「月経がある」「妊娠・出産がある」「心理的変化が体調の変化に伴って起こりやすい」「加齢に伴って起こる変化が男性よりも大きい」という特徴があり、これらは女性ホルモンの関与が大きいといわれています。女性ホルモンの分泌が大きく変化すると、自律神経のバランスを保持することが困難になり、内臓機能、免疫系、精神面などに様々なトラブルをきたすことがあります。

このような女性の体調不良は漢方薬の大変いい適応になるため、男性よりも女性の方が漢方薬を使用することが多く、婦人科で漢方が処方されることも珍しくありません。

 

 

思春期と漢方

思春期の婦人科トラブルで多いのは月経困難症、月経不順、月経前症候群で、「当帰芍薬散」「加味逍遥散」を用いることが多く、月経前のイライラ感、不安感には「抑肝散」「加味帰脾湯」などを用いています。また、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬といったホルモン剤と併用することも少なくありません。ただし、漢方薬の味が苦手な思春期女子も多く、ココアに溶かして服薬して頂く等の工夫をお伝えしております。

 

 

性成熟期と漢方

性成熟期になると、月経困難症や月経前症候群などに加えて、妊娠を希望される方も増えてきます。無排卵や排卵遅延などの排卵障害に対して、「当帰芍薬散」「桂枝茯苓丸」「温経湯」などを処方する事があります。

また、子宮筋腫や子宮内膜腫に対して偽閉経療法を行なう方も多く、副作用として更年期障害様症状を認める方もいらっしゃいます。そのような副作用には「当帰芍薬散」「桂枝茯苓丸」などを使用しています。

 

 

妊婦・褥婦と漢方

妊娠中・授乳中は薬剤の児への影響を心配されて、漢方薬をご希望される方も少なくありません。妊娠悪阻に対して「小半夏加茯苓湯」「半夏厚朴湯」などを使用しています。

妊娠後期は、胎児が小柄なときには「当帰芍薬散」、予定日近くになっても頚管が未熟なときには「五積散」を使用しています。

産褥期は、貧血に対して「人参養栄湯」、乳汁分泌不良・抑うつには「キュウ帰調血飲」、不安神経症には「女神散」、疲労感には「補中益気湯」などを用いています。また、乳腺炎に対して「葛根湯」を処方することもあります。

 

 

更年期以降と漢方

更年期障害に対する治療は、ホルモン補充療法と漢方療法が双璧であり、併用することも少なくありません。当院では更年期障害に対して「当帰芍薬散」「加味逍遥散」「桂枝茯苓丸」を中心に処方しており、冷えが強いときには「十全大補湯」「人参養栄湯」「温経湯」など、めまいが強いときには「半夏白朮天麻湯」「苓桂朮甘湯」などを用いています。

 

 

漢方薬は、病気の原因を直接治療するといった西洋薬とが異なり、体質や症状の改善を目的とする治療法です。
効果のある方は非常に有効であり、もし一つの漢方薬で効果が不十分であったとしても、他の漢方薬が奏効することも少なくありません。
私は漢方専門医ではありませんが、女性の豊かな人生をサポートする産婦人科医として、漢方薬を有効に活用していきたいと考えています。