院長コラム

当院におけるホルモン補充療法の黄体ホルモン製剤の選び方

更年期障害や閉経後骨粗しょう症の治療として、ホルモン補充療法(HRT)は非常に有用で、当院でも多くの女性に行っています。
HRTの中心薬剤はエストロゲン製剤ですが、これのみであると、子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスクが上昇します。
そこで、子宮内膜組織の増殖を抑え、子宮体がんのリスクを減少させるため、子宮を有している方には黄体ホルモン製剤を併用する必要があります。
今回は、エストロゲン製剤に組み合わせる黄体ホルモン製剤の選び方について、現時点での当院の考えをお伝えします。

 

第一候補:「エフメノカプセル」(天然型)

天然型とは、卵巣で合成される黄体ホルモンと全く同じ構造の製剤で、現在世界では主流になっています。
ただし、わが国では2021年11月に新しく発売されたばかりであるため、あまり使用例は多くありません。
それでも、海外の豊富なデータでは、子宮内膜増殖抑制作用は我が国のスタンダードであった「プロベラ錠」と遜色なく、乳がんのリスクもないことから、HRTにおける理想的な黄体ホルモン剤と考えられています。特に、むくみを抑える作用や睡眠を促す採用があるため、更年期障害治療には有用であると思います。
当院では、新たにHRTを始める方には、「エフメノカプセル」を第一選択としています。

 

第二候補:「ディナゲスト錠」(天然型に類似構造の合成型)

エストロゲン製剤には、脳神経細胞保護効果、動脈硬化予防効果などがみられます。ただし、「プロベラ錠」を組み合わせることによって、これらの望ましい効果が相殺されてしまうことが判明しました。
本来であれば天然型が望ましいのですが、日本で発売される前は天然型に類似した構造である「ディナゲスト錠」を用いるケースが増えていました。
ただし、子宮内膜組織増殖抑制作用は「プロベラ錠」よりやや弱い印象があり、不正出血を認める方も少なくありませんでした。
今後は、「エフメノカプセル」に切り替えるケースもあるかもしれませんが、これまで「ディナゲスト錠」で調子がいい方の場合、コスト的には比較的お安いので、当院としては引き続き使用する予定です。

 

第三候補:「プロベラ錠」(代表的な合成型)

「プロベラ錠」はHRTに用いる代表的な合成型薬剤であり、子宮内膜組織増殖抑制作用も強く、不正出血をきたすことが少ない印象があります。
ただし、前述のようにエストロゲン製剤の利点の一部を打ち消すことや、長期の服用で乳がんのリスクが上昇するなど、デメリットも持ち合わせています。
当院としては、現在「プロベラ錠」で調子がいい方に対しては処方を継続する予定ですが、5年以上服薬している場合には、乳がんリスク軽減のため「エフメノカプセル」に切り替えることを検討しています。

 

「エフメノカプセル」は発売されたばかりで、2022年11月までは28日分しか処方することができません。
また、催眠作用があり、就寝前の服用となっているため、夜勤など時間的に不規則なお仕事の方には合わない可能性もあります。
当院では、患者さんお一人おひとりにあった黄体ホルモン製剤を選択するよう、これからも心掛けて参ります。