院長コラム

子宮筋腫がある方にホルモン補充療法は可能か

エストロゲンの減少により生じる更年期障害や閉経後骨粗しょう症に対して、ホルモン補充療法(HRT)は第一選択となっています。しかし、すべての方にホルモン剤が投与できる訳ではなく、HRTの禁忌症例や慎重投与症例に注意しなくてはいけません。
今回は、エストロゲンにより増大する可能性がある子宮筋腫を有している方に、HRTが可能かどうかについて、「ホルモン補充療法ガイドライン 2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会編)、「女性医学ガイドブック」(日本女性医学学会編)を参考に説明します。

 

 

子宮筋腫の既往は「慎重投与症例」

子宮筋腫は婦人科腫瘍のなかでも最も頻度が高く、女性の77%に認められると言われています。閉経後は筋腫の大きさは一般的に縮小しますが、筋腫の頻度自体は変わらないようです。そのため、HRTの適応のある方で子宮筋腫を有している方は少なくありません。
ガイドライン上は、子宮筋腫の既往がある方は「慎重投与ないしは条件付きで投与が可能な症例」となっています。HRTの子宮筋腫に対する影響に関する報告によると、HRTにより子宮筋腫は多少増大することがあるものの、あまり臨床的には問題にならないことが多いようです。ただし、子宮内膜を圧迫しているタイプの子宮筋腫の場合は、不正出血が増量する可能性がありますので、HRT施行中も定期的に超音波検査などで筋腫の状態を確認する必要があります。

 

 

本当にそれは子宮筋腫か

子宮筋腫と思われるほとんどが良性ですが、腫瘍が巨大なもの、超音波検査で筋腫の内部変性がみられるもの、触診で腫瘍が軟らかい印象があるものなど、肉腫(子宮筋の悪性腫瘍)との鑑別が困難な場合があります。ある種類の肉腫は、エストロゲンにより増殖・進展することが知られており、HRTが禁忌となります。そのため、HRTを行なうにあたり、肉腫でないことを確認する必要があります。
本来は、腫瘍を摘出して病理学的に検査をしてみないと確定診断はつきませんが、造影剤を用いたMRI検査により、肉腫の疑いと判定されることがあります。

 

 

HRT開始前に子宮頚がん・子宮体がんを否定

尚、子宮筋腫の有無に限らず、HRT施行前・施行中には、定期的な子宮頚がん、子宮体がん検査が必要です。子宮頚がんのうち、腺がんというタイプはHRTでリスクが上昇することが知られており、子宮体がんはHRT禁忌症例となっています。子宮頚がん、体がんと診断された場合は当然がん治療が優先されますが、前がん病変であった場合でも、大きな子宮筋腫を有している場合には、保存的治療ではなく手術療法で子宮および両側卵巣を摘出する可能性があります。

 

 

当院での診療の流れ

まず、専用問診票で更年期症状の程度を評価し、月経の状況や女性ホルモンの検査結果などから、HRT適応の有無を判断します。
内診および超音波検査で子宮筋腫の大きさや性状を観察し、肉腫の可能性について検討します。しばらく子宮がん検査を行なっていない方には、子宮頚がんおよび子宮体がんの検査を行なうことがあります。
もし、子宮肉腫が否定できない場合や子宮頚部あるいは子宮内膜に病変がみられた場合は、MRI検査、組織診などの精査および治療目的で高次施設へ紹介致します。

HRTの適応があり、子宮肉腫の可能性も低く、子宮頚部および体部の細胞診で異常がみられない場合はHRTを開始します。HRT施行中も定期的に超音波検査、子宮頚がん・体がん検査を行い、もし異常がみられましたら早めに対応致します。

 

 

HRTによる子宮筋腫への影響を心配される方もいらっしゃると思います。
その場合、更年期障害に対しては漢方薬、プラセンタ注射、エクオール(大豆イソフラボン)などで対応することも可能ですので、お気軽にご相談下さい。