院長コラム

当院における吸引分娩について

子宮口が全開し、何らかの事情で急速に児を娩出する必要が生じた時に、陰圧をかけた吸引カップで児の頭を牽引し、児の娩出を助けることがあります。これを吸引分娩といいます。
今回、当院における吸引分娩について、「産婦人科診療ガイドライン 産科編2017」(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編)、「研修ノートNo.85 インフォームド・コンセント」(日本産婦人科医会編)を参考に説明致します。

 

 

吸引分娩の適応

○ 胎児機能不全など、胎児が危険な状態となり、速やかに児を娩出させたほうがいいと判断した場合。
○ 子宮口が全開したにもかかわらす、分娩の進行が遷延または停止し、陣痛促進剤を使用しても児が下降・娩出しない場合。
○ 妊娠高血圧症候群や母体疲労などのため、分娩時間を短縮する必要があると判断した場合。

 

 

吸引分娩の決定

○ 子宮口全開で破水しており、児頭が適切な位置まで下降していることを確認します。
○ 上記の適応項目のいずれかがあると判断し、吸引分娩施行を決定します。
○ 緊急を要するケースが多いため、妊婦さんご本人(および立会いされているご主人)に口頭で説明し、ご承諾を頂きます。

 

 

吸引分娩の方法

1. 会陰部に局所麻酔薬を注射し、切開を入れます。
2. 吸引カップを児頭の適切な位置に装着します。
3. 陣痛発作の開始と同時に陰圧をかけ、適切な圧まで上昇します。
4. 妊婦さんのいきみに合わせて、吸引カップが滑脱しないように注意しながら、産道方向に沿って一定の力で牽引します。
その際、助産師が子宮底を両手で圧迫(クリステレル胎児圧出法)することがあります。
5. 原則として、吸引カップ初回装着時点から20分、あるいは牽引回数が合計5回までに児を娩出することを目標にします。
6. 上記を超えても娩出しない場合、あるいは数回の牽引で経腟分娩が困難であると予想された場合は、急遽帝王切開のため母体搬送の手配を行ないます。

 

 

吸引分娩でのリスク

<母体>
産道の裂傷が大きくなることがあり、出血量が増える可能性があります。
また、時間がたってから、腟壁や外陰部に血液の塊(血腫)が出現し、増大することもあります。
これらの場合にはしっかりと処置を致しますが、重症化した場合は高次施設へ救急搬送となることがあります。

<新生児>
頭皮損傷、頭血腫、帽状腱膜下血腫など、児頭に症状がみられることがあります。通常は自然に軽快・治癒しますが、帽状腱膜下血腫などが重症化する場合には、高次施設へ新生児搬送をすることがあります。

 

 

1~2回の牽引でスムーズに分娩に至る事が多いですが、クリステレル法を併用し、4~5回目でようやく娩出することも少なくありません。印象としては、妊娠中の体重増加が多い方、初産でマタニティヨガにご参加されなかった方、比較的小柄な妊婦さんで胎児が大きめな場合は、難産になる傾向があります。
妊婦さんにおかれましては、妊娠中の体重管理やマタニティヨガなど、安産に向けた対策をお取り頂きます様、宜しくお願い致します。