院長コラム

女性アスリートの続発性無月経

女性アスリートにとって月経困難症、過多月経、月経前症候群はパフォーマンスの低下に繋がるため、月経はない方がいいと考える選手や指導者がいらっしゃるかも知れませんが、それは大きな誤りです。
今回は、「産科と婦人科2018年4月号」の記事を参考に、女性アスリートの続発性無月経について説明します。

 

 

続発性無月経の原因は低栄養・低体重

初経以来認めていた月経が、3ヵ月以上みられない状態を続発性無月経といい、様々な原因が知られています。女性アスリートの場合は、「利用可能エネルギー不足」が最も多い原因と言われています。利用可能エネルギー不足とは、運動による消費エネルギー量に見合った食事からの接種エネルギー量が不足している状態をいいます。

エネルギー不足の状態が長期間継続すると、次第に脳から分泌されるホルモンが低下し、結果的に卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンが減少します。エストロゲンは子宮内膜を増殖させる作用をもち、エストロゲンが減少することで子宮内膜は剥がれて月経となります。つまり、低エストロゲン状態となることが、直接的な無月経の要因と言えます。尚、排卵も止まりますので、この状態が続く限り妊娠することはできません。

 

 

疲労骨折により選手生命も危機に

さらに、エストロゲンは骨代謝にも関与しており、エストロゲンの減少で骨密度が低下し、骨粗しょう症になるリスクが高まるといわれています。骨粗しょう症になれば疲労骨折をきたす可能性が高くなるため、選手生命にもかかわることになります。

 

 

無月経になりやすい競技

女性トップアスリートでの調査では、体操(約75%)、新体操(約40%)、フィギュアスケート(約30%)などの審美系競技と、長距離陸上(約25%)、トライアスロン(約25%)などの持久系競技で無月経の頻度が高いと報告されています。これらの競技では、その競技特性から低体重が有利であることから、エネルギー不足状態に陥りやすいとのことです。アスリートの心理行動特性として、完璧主義や禁欲があり、過激な減量やオーバートレーニングに陥りやすいと言われており、歪んだボディーイメージが強いため、女性としての身体的成熟を拒否するケースもあるそうです。
ちなみに、疲労骨折の割合でも長距離陸上(約75%)、新体操(約45%)は高いため、これらの競技はより注意が必要です。

 

 

続発性無月経にならないために

女性アスリートの無月経の頻度をBMI(体重kg÷身長m÷身長m)別に見ると、17.5~18.5では約20%、17.5未満になると25%以上の方が無月経になっているとの事です。つまり、BMI:18.5以上(思春期の場合は標準体重の90%以上)を目標に摂取エネルギー増やすことが、続発性無月経の予防に繋がります。

アメリカスポーツ医学会では、摂取エネルギー量:最低2,000kcal/日を治療指針としており、国際オリンピック委員会でも1日300~600kcal摂取エネルギー量を増やすことが推奨されています。特に無月経のアスリートは炭水化物の摂取量が少ない傾向にあるそうですので、努めて摂取するようにしましょう。

 

 

女性アスリートの無月経の危険性は、本人はもちろん、指導者の方やご家族など、周りでサポートされている皆さんにご認識頂きたいと思います。
スポーツはあくまでも心身の健康を目指すべきものであって、健康を犠牲にしてまで競技成績を上げることを目指すべきではありません。
女性アスリートの方は、3ヵ月以上の無月経になる前の段階、月経が不順になりましたら婦人科外来を受診されることをお勧めします。