院長コラム

女性は男性よりも痛みに弱い?

先日、日本産科婦人科学会学術集会に参加し、いくつか興味深い講演を聴いて参りました。
その中で、「疼痛の男女差」についてのお話がありましたので、一部情報共有したいと思います。

 

女性は男性より痛みに敏感で、鎮痛剤も効きづらい可能性が

動物を使った多くの研究によると、疼痛に対する感受性はオスの方が低く、メスの方が高かったそうです。このことは、オスの方が痛みに“鈍感”で、メスの方が痛みに“敏感”であることを意味します。個人的な意見ですが、敵と戦って傷つくことが多いオスは、痛みに鈍感でないと「やってられない」のかも知れません。
また、鎮痛剤の感受性に関する研究では、オスの方が高く、メスの方が低かったそうです。すなわち、メスの方がオスより鎮痛剤が効きづらいことを意味します。
もちろん、これらの結果がヒトにも当てはまるとは限りません。ただし、ヒトを対象とした研究でも、「慢性疼痛の有病率は女性の方が男性よりも高い」との報告があるようです。

 

男性ホルモンが疼痛抑制に関与しているかも

このような疼痛に関する性差には、男性ホルモンが関係していると考えられています。
月経困難症女性を対象に、骨盤痛と性ホルモンの関連を調べた研究によると、女性ホルモン(エストロゲン)濃度が高いと、骨盤痛の日数が多くなり、男性ホルモン(テストステロン)が高いと骨盤痛の日数が少なくなる傾向があったそうです。
以前は、男性ホルモン様作用を持つ薬剤(ダナゾール)を子宮内膜症による月経困難症・慢性骨盤痛などに対して使用することがあり、確かに鎮痛効果は認められていたようです。
しかし、多毛などの男性化現象という副作用も認められたため、現在ではほとんどダナゾールは使用されていません。

 

男性ホルモン様作用からみたLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)の使い分け

現在、月経困難症に対する薬物療法としてはLEPが主流であり、特に連続投与により月経頻度を減らす治療が推奨されています。
それに対応するLEP として、「ジェミーナ錠」と「ヤーズフレックス錠」があります。
ジェミーナ錠に含まれる黄体ホルモンは「レボノルゲストレル」といって、男性ホルモン様作用を有しています。
一方、ヤーズフレックス錠に含まれている黄体ホルモンは「ドロスピレノン」といって、男性ホルモン様作用を持たず、むしろその作用を抑える方向に働きます。
ガイドライン上の決まりはありませんが、それらの性質の違いを踏まえて、LEPの種類を選択している産婦人科医も多いと思われます。

 

当院では、月経痛が強く、月経前に気分の落ち込みが強い方に対しては、男性ホルモン様作用を期待して、「ジェミーナ錠」を選択する傾向があります。
一方、月経痛の強さにかかわらず、月経前にイライラ感、易怒性が高まる方には、男性ホルモン様作用を抑える効果を期待して、「ヤーズフレックス錠」を処方することが多いです。
ただし、効果や副作用の現れ方は、お一人おひとり異なるため、今後も経過を見つつ最善の薬剤を使用して参ります。