院長コラム

女性は“炎”と“氷”でできている?

先日、世田谷区・目黒区・渋谷区の産婦人科医を対象とした講演会が開催されました。女性ホルモン製剤に関するテーマで、大変学びの多い講演会でした。
中でも、女性ホルモンの働きに関するお話が興味深かったので、私の見解も交えつつ、皆さんに伝えしたいと思います。

 

卵胞ホルモン=エストロゲンは“炎”

性成熟女性の場合、卵巣にある卵胞(卵子が入っている袋)から、エストロゲンというホルモンが分泌されます。
卵胞は月経後から排卵期に向けて徐々に大きくなり、それに伴いエストロゲンの分泌も増加します。エストロゲンには様々な働きがありますが、子宮内膜を肥厚させ、受精卵が着床しやすい状態にする作用があります。
ただし、エストロゲンが長期にわたり多量に分泌し過ぎると、内膜組織が増殖し続け、最後には子宮内膜がドロドロに剥がれ落ち、出血がダラダラ持続してしまうことがあります。
これは破綻出血といって、エストロゲンという炎によって、内膜が焼けただれてしまった状態といえます。

 

黄体ホルモン=プロゲステロンは“氷”

そこで、エストロゲンの暴走を食い止めるためのホルモン、つまり“炎”を消す“氷”のようなホルモンが必要になります。それが、黄体ホルモン=プロゲステロンです。
月経周期が28日前後の方の場合、月経後卵胞が発育し、月経開始14日目頃に大きく成熟した卵胞が弾けて、中から卵子が飛び出ます。これを排卵といいます。卵胞は排卵後に黄体という組織に変わり、そこからプロゲステロンというホルモンが分泌されます。
プロゲステロンにも様々な働きがありますが、子宮内膜の増殖を抑え、妊娠に適した内膜の状態に変化させる作用があります。
つまり、“炎”であるエストロゲンの働きを抑え込む作用がプロゲステロンにはあり、これが“氷”と例えられる所以です。

 

“炎”と“氷”のバランスが大切

以上のように、子宮内膜にとってエストロゲンは“炎”であり“アクセル”です。そして、プロゲステロンが“氷”であり“ブレ一キ”です。
自動車はアクセルとブレーキがあって、初めて安全運転ができます。同じように、子宮内膜にとってエストロゲンとプロゲステロンのバランスが非常に大切です。
このことは、子宮内膜症など、エストロゲンが暴走する病気の治療にも応用されています。

 

「女性は、炎のような“情熱的”な面と、氷のような“クール”な面を持ち合わせている」という話を今回言いたい訳ではありません。
しかし、排卵前はエストロゲンの影響で性的情動がアップし、排卵後はプロゲステロンの影響でそれが抑制されるとの話もあります。
「女性は“炎”と“氷”でできている」とは言い過ぎですが、性成熟期女性にとって、エストロゲンもプロゲステロンも大切なホルモンであることに違いはありません。