院長コラム

更年期女性と鉄欠乏性貧血

先日、東京歯科大額市川総合病院産婦人科の小川真里子先生による、女性の鉄欠乏性貧血に関するご講演がありました。すぐにでも日常診療に活かせる、非常に有益なお話でした。
特に更年期女性の貧血検査については、改めてその重要性に気付かされました。
そこで今回は、更年期女性と鉄欠乏性貧血について情報を共有したいと思います。

 

更年期女性の経血量の変化

日本人の閉経年齢の中央値は約50.5歳といわれており、その前後5年を更年期と呼んでいます。
更年期になると、エストロゲンという女性ホルモンは減少し始めますが、必ずしも直線的に低下するわけではありません。
実は、エストの分泌は、減少する前に一時的に増加し、その影響で経血の増加や頻回な月経を経験することがあります。
その後、エストロゲンの分泌が減少に転じ、今度は経血量も少なくなり、月経の頻度も減って、ついには月経がなくなり閉経となります。
このように、閉経前に過多月経、過長月経、頻発月経を経験し、それが原因で鉄欠乏性貧血となってしまう方も少なくないようです。

 

更年期症状に似ている貧血症状

更年期症状はエストロゲンが減少する頃から出現することが多く、のぼせ・ほてりなどの血管運動神経症状、抑うつ・不安感などの精神症状、肩こり・腰痛などの筋肉関節症状など多彩な症状がみられます。
中でも、疲労感、動悸、頭痛、めまい、抑うつなどは貧血症状と共通するため、その鑑別には血液検査が不可欠です。

 

鉄欠乏性貧の診断

通常の末梢血一般検査を行い、ヘモグロビン値が12.0 g/dl 未満の場合を貧血といいます。他の検査項目から貧血のタイプを診断しますが、フェリチンを測定することで、鉄欠乏性貧血であるかどうかが分かります。
フェリチンとは体内の貯蔵鉄の指標であり、ある基準より低ければ鉄の貯蔵量が少ない“鉄欠乏状態”と言えます。
ちなみに、ヘモグロビンは“財布のお金”、フェリチンは“銀行預金”に例えられます。財布のお金も、銀行預金も少ないケース(鉄欠乏貧血)はもちろん、財布にお金があったとしても、銀行預金が少なければ(鉄欠乏症)、鉄剤による治療が必要になります。

 

当院ではこれまで、更年期障害と思われる方に対して、女性ホルモン濃度を調べるための血液検査を行っておりました。
今後は、閉経前に過多月経・頻発月経などを経験された方に対しては、末梢血一般検査とフェリチン検査も加え、鉄欠乏性貧血の有無も調べるように致します。
もし、鉄欠乏性貧血・鉄欠乏症と診断された場合には、鉄剤による治療を進めて参ります。