院長コラム

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の生涯の健康リスク

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、月経異常(無月経・希発月経など)、多嚢胞卵巣(超音波検査での診断)、ホルモン血液検査(血中の男性ホルモン高値または黄体化ホルモン基礎値高値・卵胞刺激ホルモン基礎値正常)の3項目で診断されます。
PCOSは、排卵障害による不妊症の原因になるだけでなく、生涯にわたり女性の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
今回は「女性内分泌クリニカルクエスチョン90」(診断と治療社)などを参考に、PCOSの生涯の健康リスクについて説明します。

 

  • 2型糖尿病

PCOS患者さんの50~80%にインスリン抵抗性が認められます。インスリン抵抗性とは、インスリンの作用(血糖値を下げる作用など)が十分に発揮されない状態をいいます。
また、1年あたりPOCS患者さんの2.5%が2型糖尿病を発症するとの報告もあります。
PCOS患者さんのうち、肥満・40歳以上・妊娠糖尿病の既往・糖尿病の家族歴のいずれかに該当する場合は、糖尿病のスクリーニング検査が推奨されています。

 

  • 脂質異常、心血管障害

わが国ではPCOS患者さんの約15~20%の方は肥満といわれています。PCOSは脂質異常症と関連しており、特に中性脂肪の上昇とHDL(善玉)コレステロールの低下を指摘する研究が多いようです。
また、ある研究では、PCOSの患者さんにおける狭心症や心筋梗塞などの心血管障害の発生が、一般女性の約1.3倍であると報告されています。

 

  • 子宮体がん

PCOS患者さんでは女性ホルモンのエストロゲンが持続的に分泌されていて、子宮内膜組織を増殖させています。
定期的に排卵していれば、排卵後に分泌される黄体ホルモンの効果で、子宮内膜組織は過剰に増殖しないよう抑制されます。
しかし、無排卵・無月経となっている場合は、黄体ホルモンが分泌されず、子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスクが高まります。
ある研究では、PCOS患者さんの子宮体がんリスクが、全年齢で約2.8倍、54歳未満では約4倍増加すると報告されています。

 

  • 周産期合併症

PCOSの患者さんが妊娠された場合、妊娠高血圧症候群や妊娠高血圧腎症は約3~4倍、妊娠糖尿病は約3倍、早産は約1.3~2.2倍もリスクが上昇するとの報告があります。

 

PCOSと診断された方は、妊娠中の合併症、その後の内科的合併症や子宮体がんのリスク上昇に注意が必要です。
生涯を通じて、バランスのとれた食生活・適切な運動習慣を心掛けましょう。
さらに、内科と婦人科のかかりつけ医を持ち、定期検診を受けることをお勧めします。