院長コラム

ホルモン補充療法に期待される効果(2)

前回に引き続き、更年期医療の柱であるホルモン補充療法(HRT)に期待される効果について、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会)、「女性医学ガイドブック 更年期医療編2014年度版」(日本女性医学学会)などを参考に説明します。

 

 

(6)中枢神経系

閉経早期にHRTを開始すると認知症の発症が減少したとの報告があります。その理由として、エストロゲンの神経保護作用により神経細胞数が増加することや、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβ蛋白の沈着をエストロゲンが減少させることがいわれています。ただし、65歳以上の女性を対象として研究では、HRTにより脳血管障害が助長され、認知症がむしろ増加したとの報告がありますので、HRTを開始するなら閉経早期が望ましいといえます。

また、更年期障害の抑うつ症状に関しては、HRTで改善するといわれています。抑うつ症状の原因として、脳内伝達物質のセロトニンの減少が考えられていますが、抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)と同様な作用をエストロゲンも有しており、セロトニンを増加させているそうです。
尚、うつ病に対してはHRT単独での効果は認められていませんが、SSRIとの併用で効果が増強するとの報告があります。

 

 

(7)皮膚

皮膚には多くにエストロゲン受容体(受け皿)があり、閉経前は皮膚の潤いや張りが保たれています。しかし、閉経後はエストロゲンの低下により、皮膚のしわ、乾燥感、蟻走感(ムズムズ感)、膣粘膜の萎縮など、様々な皮膚症状が出現します。

閉経後の女性にエストロゲンを補充することで、皮膚のコラーゲン量が増加し、皮膚の厚さが増すだけでなく、皮膚の表層組織のきめ細やかさや皮膚結合組織の弾力性も改善するといわれています。

 

 

(8)泌尿生殖器系

最近、GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)という概念が提唱されています。これは、閉経に伴う外陰・腟の萎縮変化およびそれに伴う不快な身体症状を指し、性交痛、外陰部の乾燥感・灼熱感・掻痒感、頻尿、尿失禁、再発性膀胱炎など様々な症状がみられます。

GSMの中でも外陰・腟の萎縮に伴う症状に対しては、HRTによる改善効果が特に期待できます。また、GSMに対して外陰腟レーザー治療(モナリザタッチ)が行なわれることがありますが、HRTを併用することで相乗効果が認められる、との報告があります。

 

 

(9)悪性腫瘍

大腸がんに関して、HRTの使用歴がある女性で20~40%、現在使用している女性では30~40%のリスクが減少したとの報告があります。
また、胃がん、食道がん(腺がん)のリスクは、HRTによって約25%低下すると言われています。
その他、肝細胞がんのリスクもHRTにより有意に低下するとの研究報告もあります。

 

 

(10)歯科口腔系

下顎骨と腰椎の骨量には相関があることが知られており、腰椎と同様にHRTにより下顎骨の骨量も増加します。
また、HRTは歯牙喪失を予防し、歯周疾患や他の口腔内症状を予防もしくは改善するとの報告もあります。

 

 

更年期あるいはそれ以降の様々な症状の改善や予防に、HRTは非常に効果的です。
ただし、HRTは必ずしも万能ではなく、HRTが禁忌または慎重投与の方もいらっしゃいます。
私たちは、症状や診察・検査所見、既往歴などから、その方にとってHRTが適切であるかどうかを判断しています。
HRTをご希望の方全員にHRTを行なえるとは限らない旨、ご了承下さい。