院長コラム

低用量ピルや低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬を服用している方が,手術をすることになった時

思春期から性成熟期の女性で、避妊目的で低用量ピル(OC)を服用している方、月経困難症の治療として低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)を服用している方が増えてきました。OC・LEPを服用中の方が何らかの手術を受ける場合は、「血栓症」に注意する必要があります。
今回はOC・LEP服用中の方が手術を受けることになった時の対応について説明します。

 

 

「血栓症」とは

血管の中に血の塊(血栓)が生じ、血流が悪くなった状態を血栓症と言います。血栓が静脈に発生する場合を静脈血栓症といい、手足や眼の静脈に発生しやすいことが知られています。血栓が剥がれて流されると肺動脈に詰まり、肺塞栓症という命にかかわる重大な状態を引き起こすことがあります。

女性ホルモンのエストロゲンには、血液を固めやすくする性質があります。OC・LEPを服用していない人の静脈血栓症の発症率は、1年間で10万人に約5名程度ですが、OC・LEPを服用するとリスクが3~4倍高くなるといわれています。特にOC・LEPを服用し始めて3ヵ月以内のリスクが高く、注意が必要です。

また、動脈に血栓が場合を動脈血栓症といい、脳の動脈が詰まると脳梗塞、心臓の動脈に血栓ができると狭心症や心筋梗塞をひき起こします。基礎疾患のない女性の場合、OC・LEP服用のみでは心筋梗塞のリスクは上昇しませんが、脳梗塞は約1.5倍リスクが上昇すると言われています。また、もともと喫煙、高血圧症などのリスクがある方の場合、心筋梗塞・脳梗塞ともにリスクは有意に上昇します。

 

 

「4週間以内に手術を予定している方、手術後2週間以内の方」はOC・LEP禁忌

手術および術後のベッド上安静自体が血栓症のリスクになります。したがって、ガイドライン上、4週間以内に手術を予定している方、手術後2週間以内の方はOC・LEPは禁忌となっています。もし、手術の可能性がある疾患をお持ちの場合は、あらかじめ主治医にOC・LEPを服用している旨お伝え下さい。さらに、急に手術をすることになった場合は、すぐにOC・LEPの服用を中止し、手術の時期について主治医とご相談下さい。また、術後2週間以上経過しても長期にわたり安静が必要な場合は、血栓症のリスクが継続する可能があるため、OC・LEPの内服再開時期については、手術をされた先生の指示に従うようにしましょう。

尚、乳がん・子宮体がんなど、エストロゲンにより増悪する可能性がある疾患であると診断された場合は、手術の有無・時期に関係なく、診断された時点でOC・LEP服薬を中止し、今後の方針について主治医とご相談下さい。

 

 

時として、急に手術をしないといけない状況になることがあります。
OC・LEPを服用開始する時点で、他の血栓症リスク、例えば高血圧や糖尿病、脂質異常症などの合併症は内科主治医の先生に治療して頂いていると思いますが、肥満の方は減量、喫煙者は完全禁煙など、ご自身でも血栓症リスクを減らすようにしましょう。