院長コラム

ホルモン補充療法(HRT)に期待される効果

更年期に入りエストロゲンの分泌が低下すると、更年期障害をはじめ様々な症状が出現します。その際、エストロゲンを補充するHRTが治療の大きな柱になります。
今回は、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会編)などを参考に、HRTに期待される効果を説明します。

 

1.有用性が極めて高いもの

・血管運動神経症状

代表的な更年期症状である、のぼせ・ほてり・発汗・冷えといった症状を「血管運動神経症状」といいます。
これらに対してはHRTがとても有効であり、禁忌でなければ第1選択となります。

・骨粗しょう症治療、予防

エストロゲンが減少すると骨密度が低下し、骨粗しょう症のリスクが高まります。
HRTには骨密度上昇効果、骨折発生抑制効果が認められています。

 

2.有用性が高いもの

・更年期のうつ症状

エストロゲンは脳内の神経伝達物質にも関係しており、HRTにより更年期の抑うつ気分や抑うつ症状の改善が期待できます。
ただし、HRTの効果が不良であるケースもあり、その場合は漢方薬や抗うつ薬を併用することがあります。

・脂質異常症の治療

HRTの薬剤によっては血中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を低下させ、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を上昇させる作用があります。
ただし、保険診療上、脂質異常症の治療目的としてはHRTを行うことができません。

・皮膚萎縮の予防

エストロゲンの低下は皮膚のコラーゲン量の減少や保水効果の減弱をきたしますが、HRTにより皮膚症状の改善が期待できます。

 

3.有用性があるもの

・上記以外の更年期症状

血管運動神経症状や精神症状に対する効果ほどではありませんが、肩こり、腰痛、疲労感、関節痛などの更年期症状に対しても、HRTが有用である場合が少なくありません。

・アルツハイマー病の予防

HRTの認知機能への影響については様々な報告がありますが、現時点ではHRTが認知機能を維持または認知症の発症を予防するといった明らかな証拠はありません。
ただし、条件によってはHRTがアルツハイマー病発症のリスクを低下させる可能性を示す報告もみられます。

・動脈硬化症の予防

血管はエストロゲンにより守られており、閉経後動脈硬化が進行することが知られています。
HRTは発生した動脈硬化症を治す事はできませんが、HRTを始める時期や薬剤の種類によっては、動脈硬化症の予防も期待できます。

 

HRTは決して“万能薬”ではありません。
しかし、エストロゲン低下に伴う様々な症状に対して、治療効果や予防効果を発揮します。
閉経後、心身の体調不良により生活に支障をきたすのであれば、積極的にHRTをご検討下さい。