院長コラム

ホルモン補充療法に期待される効果(1)

閉経前後の更年期と呼ばれる時期に、女性ホルモンであるエストロゲンは急速に減少し、様々な症状が出現します。
ホルモン補充療法(HRT)とは、エストロゲンを補うことで、それらの症状を軽減、改善させる治療です。また、エストロゲン低下が原因の慢性的な疾患の予防・治療にも効果を発揮します。
今回は、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会)、「女性医学ガイドブック 更年期医療編2014年度版」(日本女性医学学会)などを参考に、HRTに期待される効果について説明します。

 

 

(1) 更年期障害

更年期障害とは、更年期に現れる多種多様な症状で、卵巣機能の低下が主な原因と考えられています。最も特徴的な症状である「ホットフラッシュ(のぼせ)」に対するHRTの効果は非常に高く、発現回数で75%減少、症状の強さは1/10程度まで改善されたとの報告があります。

その他、寝汗、不眠、腟乾燥感、記銘力低下、頻尿、精神症状(いらいら感、不安、気分の不快感など)、関節痛、四肢痛などに対しても改善効果が期待できます。

 

 

(2) 運動器系

エストロゲンの低下により骨は溶けて(骨吸収)、骨粗鬆症になるリスクが高まります。HRTは骨吸収を抑え、骨密度を増加させることで骨粗鬆症の予防・治療になり、骨折の予防にもなります。その他、関節保護効果、運動機能改善作用、姿勢バランスの改善作用もあるといわれています。

 

 

(3) 脂質代謝

脂質異常症は動脈硬化の危険因子であり、動脈硬化は冠動脈疾患や脳卒中を引き起こします。エストロゲンの低下によりLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が上昇し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が減少するため、閉経後は動脈硬化のリスクが高まります。

HRTはLDLコレステロールを減少させ、HDLコレステロールを上昇させるため、脂質代謝の改善による動脈硬化の予防が期待できます。

 

 

(4) 糖代謝

インスリンは血糖を抑えるホルモンですが、閉経後にインスリンの働きは低下します。HRTはインスリンの働きを改善させ、血糖を低下させることが知られています。そのため、HRTにより糖尿病の新規発症を抑えることが期待されます。

ただし、コントロール不良な糖尿病患者さんへのHRTは、かえって糖代謝を悪化させる可能性があるため、糖尿病の治療を目的としてHRTを行なうことはありません。

 

 

(5) 循環器系

血管内皮細胞が障害を受けると動脈硬化を発症するため、血管内皮機能を守ることは非常に重要です。閉経後早期のHRTであれば血管内皮機能を改善させることが期待できますが、閉経後10年以上経過してからのHRTは、その効果が減弱します。そのため、閉経後なるべく早めにHRTを開始することが勧められます。

また、閉経後に血圧の上昇を認めることがありますが、HRTを正常範囲の血圧の方に対して行なうと、血圧が低下するといわれています。HRTには降圧剤ほどの効果はないため、高血圧治療として行なうことはできませんが、少なくとも血圧を上昇させることはありません。

 

 

HRTの適応になるのは更年期障害、閉経後骨粗鬆症ですが、間接的に、あるいは結果的に脂質代謝・糖代謝・循環器系にも好影響を与えることが期待できます。
ホルモン剤の種類や、経口剤、経皮剤といった剤形により、功能・副作用が異なる部分もありますので、当院ではお一人おひとりの症状や合併症などを考慮し、最善の治療法を選択して参ります。