院長コラム
黄体機能不全の診断と治療
卵子が入っている卵胞が破裂し、卵子が飛び出た後(つまり排卵の後)、卵胞は黄体という組織に変化します。その黄体から黄体ホルモンが分泌されますが、これは妊娠の維持に欠かせない、大変重要なホルモンです。
今回、黄体ホルモンの分泌異常のため、妊娠に適した子宮内膜の変化が正常に起こらない病態、「黄体機能不全」について、「Progestin Insights 2017No.3」の記事を参考に説明します。
黄体機能不全の診断
① 基礎体温からの診断
正常排卵周期の方の基礎体温は低温相と高温相の二相性を示し、その温度差は0.3度以上です。その基礎体温が以下のものを黄体機能不全と診断します。
(1)高温相が10日以内
(2)低温相と高温相の平均温度差が0.3度以下
(3)高温相の後半に体温が下降するタイプ
(4)高温相の前半の体温の上昇が低いタイプ
② 血中黄体ホルモン(プロゲステロン)濃度からの診断
基礎体温が高温相であり、排卵後5日目から9日目までの黄体期中期の血中プロゲステロン濃度が10ng/ml未満を黄体機能不全と診断します。
③ 子宮内膜日付診からの診断
黄体期(高温相)中期に子宮内膜を採取し、プロゲステロン分泌に伴う組織学的な変化から評価する方法で、以前は不妊症検査の標準的診断法とされてきました。ただし、最近では不確実な点も多いため、あまり行なわれていません。
黄体機能不全の原因と影響
黄体機能不全は、加齢、肥満、摂食障害、過度な運動、甲状腺機能異常、高プロラクチン血症、排卵誘発など、様々な原因が考えられます。
甲状腺機能異常や高プロラクチン血症の方は、まずそちらの治療を優先します。
また、肥満、摂食障害、過度な運動がみられる方は、適度な運動、バランスのとれた食生活に心がけ、適正体重を目指します。
排卵機能不全の方は、不妊症、反復流産、頻発月経、月経前の点状出血など様々なトラブルをきたす可能性があります。特に、挙児希望がある場合は積極的に治療しましょう。
黄体機能不全の治療
① 挙児希望がある場合
○自然周期における黄体ホルモン補充
黄体ホルモン補充として、高温相2~3日目から排卵抑制作用が弱い「デュファストン」や「プロベラ」などの黄体ホルモン製剤を用います。
自然周期において黄体ホルモン補充が妊娠率を改善するという直接的なデータは残念ながらありませんが、流産を繰り返す症例には流産率の減少が認められるといわれています。
○排卵誘発周期における黄体ホルモン補充
黄体機能不全では卵胞発育障害や排卵障害が認められることが多く、排卵誘発剤が用いられることも少なくありません。
特に体外受精・肺移植の際には、使用する薬剤の影響で、ご自身が分泌する黄体ホルモンが低下します。そのため黄体ホルモン製剤投与は必須であり、胎盤で黄体ホルモンが産生される妊娠8~10週頃まで、主に筋肉注射や経腟投与で補充されます。
② 挙児希望がない場合
妊娠は希望していないが月経期間の短縮や機能性出血などの検査・治療がご希望の方には、低用量ピルや漢方薬を使用することがあります。
ただし、初経後間もない時期は、無排卵周期症が見られることも多く、その後自然に月経周期が確立されることが多いため、基礎体温を付けるだけで経過観察となることも多いでしょう。
当院では、妊娠の希望があり、排卵もしているが高温相が短い、という方に、黄体期中期に血中プロゲステロン値を測定して診断することがほとんどです。多くの場合、高温期2日目頃から「デュファストン」を3錠分3で服薬して頂きます。
それでも妊娠に至らない時には、状況に応じて不妊症専門クリニックへ積極的に紹介しております。