院長コラム

ホルモン補充療法の禁忌症例と慎重投与症例~ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版から~

エストロゲンの低下に伴う更年期障害や閉経後骨粗鬆症などに対して、エストロゲンを投与するホルモン補充療法(HRT)は大変有用です。
しかし、HRTによる副作用は決して少なくないため、HRTを開始するにあたっては既往歴や合併症の内容に注意を要します。
今回は「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」を参考に、HRTの禁忌症例および慎重投与症例をお示し致します。

 

 

1. 禁忌症例

・ 重度の活動性肝疾患

エストロゲン製剤の投与により肝機能を更に悪化させる可能性があります。

・ 現在の乳癌とその既往

乳癌の既往者がHRTを行なった場合、再発のリスクを高める可能性があります。

・ 現在の子宮内膜癌、低悪性度子宮内膜管膝肉腫

・ 原因不明の不正性器出血

子宮内膜細胞診あるいは組織診を行い、異常のないことを確認した方のみHRTを行ないます。

・ 妊娠が疑われる場合

・ 急性血栓性静脈炎または静脈血栓塞栓症とその既往

静脈血栓塞栓症の既往がある方にHRTを施行したところ、その再発は約4.7倍に増加したとの報告があります。

・ 心筋梗塞および冠動脈に動脈硬化性病変の既往

HRTによって冠動脈疾患の発症が1年以内に多発するとの研究もあります。

・ 脳卒中の既往

HRTにより虚血性脳卒中の再発を増加させてとの報告があります。

 

 

2. 慎重投与ないしは条件付きで投与が可能な症例

・ 子宮内膜癌の既往

子宮内膜癌Ⅰ~Ⅱ期の治療後の患者さんでは、HRTを行なっても再発が増えないとの報告があります。当院では、生活に支障をきたす強い更年期障害で、漢方療法やエクオールなど、他の治療で効果がない場合に限り、ご本人と相談してHRTを検討します。

・ 卵巣癌の既往

・ 肥満

BMIが25以上の肥満の方に経口でHRTを行なったところ、静脈血栓塞栓症のリスクが高まるとの報告があります。ただし、経皮剤によるHRTはリスクを増加させませんでした。

・ 60歳以上または閉経後10年以上の新規投与

冠動脈疾患、静脈血栓塞栓症、認知力低下などのリスクが増加するといわれています。

・ 血栓症のリスクを有する場合

経口剤で血栓症のリスクが高まり、経皮剤では増加しないと報告されています。

・ 冠攣縮および微小血管狭心症の既往
・ 慢性肝疾患

上記2つについては、循環器専門医、肝臓専門医の許可があればHRTを行なうことがあります。

・ 胆嚢炎および胆石の既往

経口でHRTを行なったところ、胆嚢炎および胆石のリスクが高まるとの報告があります。ただし、経皮剤によるHRTはリスクを増加させませんでした。

・ 重症の高トリグリセリド血症
・ コントロール不良な糖尿病
・ コントロール不良な高血圧

上記3つは、内科的な治療でコントロールされている場合は、HRTを行なうことがあります。

・ 子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の既往

原則的に、子宮筋腫や子宮腺筋症に対し子宮全摘された方に対するHRTは、子宮体がんの心配がないため、エストロゲンのみの補充で治療します。
ただし、子宮内膜症に対して子宮全摘された方のHRTでは、腹腔内に子宮内膜組織が残存している可能性があるため、黄体ホルモン剤(デュファストン)を併用することがあります。

・ 片頭痛

必ずしも片頭痛に対するHRTの影響は明らかではありませんが、HRTを行なう場合、片頭痛の再発の可能性があります。

・ てんかん

ある研究では、周閉経期のてんかん発作の発生とHRTの間には有意な関連が認められました。当院ではHRTの可否について、かかりつけの神経内科医のご意見で判断します。

・ 急性ポルフィリン症

・ 全身性エリテマトーデス(SLE)

HRTにより増悪の可能性がありますので、かかりつけの膠原病専門医と相談します。

 

 

当院ではHRTを開始する前に、既往歴や合併症をお聞きし、禁忌でないことを確認してからHRTを開始しています。
もしHRT治療中であっても、忘れていた既往歴を思い出した場合、または新たに内科的な合併症が見つかった際には、是非お伝え下さい。