院長コラム
飲酒とエストロゲンとの関係
年末年始、帰省先やご旅行先などでゆっくりと過ごされ、お酒を嗜んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
今回は、アルコールと女性ホルモンであるエストロゲンとの関係について、「エストロゲンと女性のヘルスケア」(武谷雄二東京大学名誉教授著 メジカルビュー社)を基に、情報を共有したいと思います。
飲酒により血中のエストロゲン濃度は上昇
アルコールは肝臓で代謝され分解されますが、エストロゲンも肝臓で代謝されます。飲酒量が増えると、肝臓はアルコール分解という仕事が増え過ぎてしまい、エストロゲンの処置が疎かになってしまいます。その結果、エストロゲンは分解されにくくなって体内に蓄積されてしまい、血中エストロゲン濃度は上昇します。同様に、ホルモン補充療法中の女性の場合も、アルコールを常用していると血中エストロゲン濃度は高くなるとの事です。
閉経後女性は卵巣からのエストロゲンはほとんど分泌されませんが、テストステロンという男性ホルモンが分泌されています。テストステロンは脂肪組織でエストロゲンに転換されるため、体の脂肪の量が多いとエストロゲン値も高くなります。アルコールは脂肪組織におけるテストステロンからエストロゲンへの転換を刺激することが知られています。つまり、ふくよかな閉経後女性でお酒がお好きな方は、そうでない方と比べて血中エストロゲン濃度が高い可能性があります。
ちなみに、エストロゲンには心臓病や脳卒中の予防効果が知られていますが、閉経後女性が1週間に(注意!1日ではありません)グラス3~6杯程度のワイン相当のアルコールを摂取すると、わずかではあるもののエストロゲン値が上昇し、心臓病や脳卒中のリスクが減少する、との報告があるそうです。
ただし、アルコールの健康への影響は人それぞれであり、もちろん心臓病や脳卒中の予防のためにアルコール摂取が勧められるものではありません。そもそも、アルコールのせいでエストロゲンの分解速度が遅くなり、結果的に血中のエストロゲン濃度が上昇するということなので、肝機能の視点からみると決して望ましいことではないと思われます。「肝機能に問題がなければ、アルコールを少々嗜むことは、必ずしも悪いことばかりではない」ぐらいに考える方がいいでしょう。
妊活するなら男女とも飲酒は程ほどに
胎児や乳児への悪影響を防ぐために、妊娠中や授乳中はアルコールを避けなければなりません。また、アルコールによって排卵が障害されたり、排卵したとしても妊娠の成立や維持に不可欠な黄体ホルモンが十分に分泌されなくなることもあるようです。妊娠後の禁酒にスムーズに移行できるように、妊活中から飲酒の機会を控え、アルコール摂取量を抑えて頂くことをお勧めします
ちなみにアルコールは男性の生殖能力にも影響を及ぼすそうです。飲酒量が増えると男性でもエストロゲンが増加し、精子の産生が障害され不妊の原因になる可能性もあるとのことです。
アルコールは乳がんへも影響が
アルコール常用者では乳がんの発生が約40%多くなり、習慣的に飲酒している女性にみられる乳がんは、エストロゲン受容体が陽性のことが多いようです。つまり、アルコールによりエストロゲンが増加し、エストロゲンの受容体への刺激が増加したことで、乳がんの発生が増えると考えられます。また、飲酒を続けると乳がん治療後の再発率が高くなり、反対側の乳房にがんが発生するリスクも90%高まるそうです。
乳がん治療の既往がある方には、禁酒、もしくはお付き合い程度の飲酒で留めることをお勧めします。
口腔、咽頭、食道、胃、大腸などのがんも、アルコール摂取量とともに増加します。たばこの有害性を理解している方でも、お酒には寛大で、「百薬の長」とうそぶいている方もいらっしゃいます。
特に女性は男性と比べて血中アルコール濃度が高くなりやすいことが知られており、女性は男性の半分程度が適量と言われています。
お酒が大好きな方でも、「妊活中・妊娠中・授乳中はアルコールを飲まず、閉経後は嗜む程度」が理想的かも知れません。