院長コラム

里帰り出産(帰省分娩)に対する考え

この近隣にお住まいの妊婦さんが、ご実家での帰省分娩をご希望されるケースは多いですが、中にはメリットのみを考え、デメリットに気付いていない方がいらっしゃいます。
今回は、一般論や専門家としての話ではなく、あくまでも私個人の帰省分娩に対する考えを率直にお伝えしたいと思います。

 

 

原則は「近隣の方はこの地域でお産を」

当院では、原則として帰省分娩をお勧めしておりません。この地域で分娩した方が、短期的にも、中長期的にも安全で有意義であると考えているからです。
確かに帰省分娩をせざるを得ない場合がありますが、それには条件があります。

 

 

帰省分娩の条件:
あなたと実母との関係は本当に良好であると、心から言えますか?

経産婦さんの場合、入院している間、上のお子さんのお世話をご実家のご家族の方にお願いする以外に方法がない、という場合があるかと思います。
ただし、本当にご家族の方々がきちんと上の子のお世話ができるでしょうか?あなたとお子さんのサポートに関して、ご家族の方に何の問題もありませんか?あなたの育児にまわりの方々が干渉し過ぎることもないですか?そもそも、あなたと実母との関係は本当に良好ですか?

以上を真剣にお考え頂き、「恐らく大丈夫だ」と思われたら、帰省分娩を選択してもいいでしょう。

 

 

この地域での分娩を勧める3つの理由

1) 各医療施設・保健所などの行政・NPOとの連携が充実

世田谷区・目黒区・渋谷区は周産期センターなどの高次施設の数が多い上にレベルが高く、各医療機関同士の連携が充実しています。さらに、行政も子育て関連事業に力を入れており、子育てNPO法人の活動も活発なエリアです。

帰省すると、情報提供書などがあるとはいえ、医療施設や保健所などの間でさまざまな情報のやり取りがスムースにいかなくなる可能性が高くなりますが、この地域でのお産であれば、中長期的に連続してサポートが可能です。

(2) 仕事と両立しやすい

帰省分娩は通常妊娠34週頃までには帰省して頂きますが、状況によっては、対応が後手後手に回って、母児の健康に悪影響を及ぼすことのない様、仕事を早い週数から休んで頂き、分娩施設に転院していただくことも少なくありません。

もし、お仕事をされている方であれば、産休前に急きょ休職せざるを得ないケースも出てきます。すると、職場の方やお客様など周りへのご迷惑をおかけする事もあるでしょう。

それが、帰省せずに、、“充実した地域ネットワーク”の地域で分娩するのであれば、産休までの間は細かく診察しながら、臨機応変に対応し、工夫しながらお仕事との両立を目指すことも可能な場合があります。

(3) お父さんの子育て

帰省分娩の場合、分娩直後の時期にお父さんがいないため、長い子育てのスタートを夫婦二人一緒に切れないデメリットがあります。

お父さんとお母さんの子育ての意識にずれが生じ、「二人で一緒に子育て」スタイルではなく「お母さんの子育てをお父さんが手伝う」という図式になっても仕方ないでしょう。

分娩前後の時期をご夫婦で一緒に過ごすこと自体が、理屈ではなく、ご主人が“お父さん”へ成長するスイッチになっているかもしれません。

 

 

あくまでも「帰省分娩」は、「背に腹はかえられぬ」苦渋の選択であるので、「あらかじめ職場には妊娠前のような働き方はできない可能性がある旨伝え、職場の方々にご理解・ご協力をお願いする」、「分娩後は早めに帰省先から戻るか、分娩前後、頻回に夫に帰省先へ来てもらう」など、せめてデメリットを少しでも解消する方策を考えておきましょう。