院長コラム
胎児発育不全への対応
妊娠中の胎児推定体重が、その時の週数の一般的な胎児体重と比較して、明らかに小さい場合を胎児発育不全(FGR;fetal growth restriction)といいます。
今回は、当院でのFGRへの対応について説明します。
胎児の発育評価法
胎児の発育を評価する方法として、超音波を用いた推定体重が一般的です。妊娠中期以降、超音波にて児頭の横幅、腹部周囲の長さ、大腿骨の長さを計測し、ある計算式で推定児体重を計算します。
当院では妊娠16週は児頭の横幅で胎児発育を評価し、妊娠20週以降は健診のたびに推定体重を計測しています。
FGRの診断
胎児推定体重が、その時の週数の平均値からどれだけのズレがあるのかを偏差値(SD)を用いて評価します。一般的に、±1.5SD以内を正常範囲とし、-1.5SDを越えて小さい場合をFGRといいます。
ただし、どうしても約10%前後の誤差(例えば2,000gの推定体重では±200gの誤差)があり、計測の仕方によっても推定体重が変わってくるため、一回だけの計測で胎児の発育、を正確に判断することは困難です。
そのため、経時的に推定体重を計算することで、その推移から胎児の発育状況を判断します。
FGRの原因
胎児側の因子では、遺伝子異常(染色体異常や遺伝子突然変異など)や子宮内感染症(トキソプズマ、風疹などのウイルス感染)があります。
母体側の因子では、妊娠高血圧症候群、糖尿病、抗リン脂質抗体症候群、心疾患などの合併症があります。
また、母体の体重増加を気にしすぎて、栄養摂取が疎かになると低栄養となり、胎児の発育障害を招くことになります。
その他、喫煙や大量のカフェイン摂取もFGRのリスク因子となります。
当院のFGRへの対応
母体合併症がある場合は、FGR傾向が見られた時点で、早めに高次施設へ紹介します。
明らかな母体合併症はないものの、FGR傾向があり母体の体重増加が不良の場合は、当院栄養士による栄養指導を行います。
さらに、疲労感などを認める妊婦さんには、臍帯血量の増加を期待して漢方薬の「当帰芍薬散」を処方することもあります。
それでも胎児発育が不良でFGRの診断がつけば、「国立成育医療研究センター」の「FGR外来」へ紹介致します。
食生活などの生活習慣の改善で予防できるFGRもあります。
改善してもFGRと診断された場合は、信頼できる高次施設へ紹介させて頂きます。