院長コラム
甲状腺機能亢進症と妊娠
当院では妊娠初期の検査で、甲状腺機能異常のスクリーニング検査を行っています。
甲状腺機能異常は、妊娠経過や胎児の発育に影響を及ぼすことがあります。
今回は、甲状腺機能亢進症と妊娠について説明します。
甲状腺ホルモンの概略
甲状腺は、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の刺激をうけて甲状腺ホルモン(FT4など)を分泌します。
甲状腺ホルモンは全身の細胞の新陳代謝を促進し、特に脳、心臓、胃腸の働きを活性化します。
甲状腺ホルモンが増えると、それ以上過剰にならないようにTSHの分泌が抑えられ、反対に甲状腺ホルモンが低下するとTSHの分泌が促され、甲状腺ホルモンを増やそうとします。
このように、常に甲状腺ホルモンが適量となるようにコントロールされています。
甲状線機能亢進症(バセドウ病)とは
甲状腺にあるTSHの受け皿(TSHレセプター)を塞ぎ、勝手に甲状腺を刺激してしまう物質(TRAb:抗TSHレセプター抗体)があると、甲状腺ホルモン分泌がコントロールできなくなり分泌過剰になります。
このような病気を甲状腺機能亢進症(バセドウ病)といいます。
バセドウ病の症状・診断
バセドウ病の症状は、甲状腺の腫れ、頻脈、発汗、体重減少、疲労感、眼球突出、手の震え、息切れ、下痢など多岐にわたります。
また、血液検査ではFT4高値、TSH低値、TRAbは陽性になります。
バセドウ病の治療
バセドウ病の治療はプロピルチオウラシルやメチマゾールといった抗甲状腺薬を使用します。
抗甲状腺薬などによる治療が不充分な妊婦さんの場合、分娩などがきっかけで不整脈や高熱・精神不安・循環不全など大変危険な状態(甲状腺クリーゼ)に陥る可能性があります。
バセドウ病の胎児・新生児に与える影響
TRAbは胎盤を通過し胎児の甲状腺にも影響を与えるため、胎児の甲状腺機能亢進や発育不良、あるいは流早産に至る場合もあります。
また、妊婦さんが服用した抗甲状腺薬の種類によっては胎盤を通過し、胎児の甲状腺機能に影響を及ぼす事もあります。出生後も、新生児の体に残っているTRAbや抗甲状腺薬の影響で、様々な甲状腺機能異常をきたす可能性があるため、充分な管理が必要になります。
妊娠時一過性甲状腺機能亢進症
妊娠初期には胎盤が作るホルモンが甲状腺を刺激し、一時的に甲状腺機能が亢進することがあります。これを妊娠時一過性甲状腺機能亢進症といい、血液検査ではFT4高値、TSH低値ですが、バセドウ病とは異なりTRAbは陰性となります。
なお、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症の場合は、妊娠中期以降にFT4、TSHが正常化するため、治療の必要はありません。
当院では、バセドウ病と診断され抗甲状腺薬を服用されている方、あるいは妊娠初期検査でバセドウ病が疑われた方に対して、原則として分娩管理は「東京医療センター」や「国立成育医療研究センター」などへ紹介します。