院長コラム

甲状腺機能低下症と妊娠

前回甲状腺機能亢進症について説明しましたが、今回は甲状腺機能低下症と妊娠についてお話致します。

 

 

甲状腺機能低下症の症状

慢性甲状腺炎(橋本病)などが原因で甲状腺機能が低下し、無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声など、多彩な症状を認めます。

血液検査では、甲状腺ホルモンであるFT4が低値で、甲状腺を働かせようとする甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値を示します。

 

 

甲状腺機能低下症の治療

橋本病による甲状腺機能低下症の治療として、チラージンS(甲状腺ホルモン製剤)を用いて甲状腺ホルモンを補充します。

 

 

甲状腺機能低下症の妊娠への影響

甲状腺機能低下症の治療が十分に治療・管理されていないと妊娠初期には流産率が上昇し、妊娠中期以降には妊娠高血圧症候群、早産、常位胎盤早期剥離、胎児発育不全、分娩時出血の増加など、母児に悪影響を及ぼすことが知られています。

また、母体由来の甲状腺ホルモンは胎児の脳神経機能の発達に大変重要であり、妊娠初期に甲状腺機能が低下したままであれば、児の精神発達遅延などのリスクも増加するとの報告もあります。

そのため、できれば妊娠前から、遅くとも妊娠初期に診断がついた時点で甲状腺ホルモン製剤をすることが望まれます。

 

 

妊娠前、既に甲状腺機能低下症と診断された方の場合

妊娠前に甲状腺機能低下症と診断されている方の場合は、十分に甲状腺ホルモン製剤を補充し、甲状腺機能が正常化してからの妊娠を勧められると思います。

妊娠後は、非妊娠時より甲状腺ホルモンの需要が高まるため、甲状腺ホルモン製剤の補充量を増加することもあります。

かかりつけの甲状腺内科専門医のご指示に従うようにしましょう。

 

 

妊娠初期検査で初めて甲状腺機能低下症が疑われた方の場合

当院では、妊娠初期での甲状腺機能検査を行っております。
今まで、バセドウ病と診断された方はいらっしゃいませんでしたが、甲状腺機能低下症の方は数名いらっしゃいました。
その方々には、甲状腺専門医の内科クリニックへ紹介し、チラージンSの服用を開始して頂いております。

 

 

甲状腺機能低下症の場合、甲状腺機能が正常に保たれていれば、妊娠中に特別な管理は必要ないと言われています。
したがって、甲状腺機能低下症を合併していても、専門医によって適切に管理して頂いていましたら、当院での分娩も可能です。