院長コラム
月経周期と心身のコンディション
性成熟女性の場合、月経周期に伴う女性ホルモンの大きな変化が、心身のコンディションに影響を及ぼすことも少なくありません。特に女性アスリートにとっては、いかにコンディションが良好な時期を競技の期間に合わせるかが大切だと思います。
今回は、「産科と婦人科2018年4月」の特集記事を参考に、月経周期と心身のコンディションについて説明します。
月経周期に伴う主観的コンディション
トップアスリートを対象とした調査では、90%の方が月経周期によるコンディションの変化を感じているそうです。最もコンディションが良い時期は、「月経直後から数日後」とする回答が約60%で最も多く、反対に最もコンディションが悪い時期は、「月経中」が40%以上、「月経前」は30%以上との結果でした。しかし、「関係ない」との回答が20~30%あり、「月経中」「月経前」が最高で「月経直後から数日後」が最悪というアスリートもわずかながらいます。このことから、月経周期がコンディションの変化に及ぼす影響は個人差が大きいと言えますが、おおむね「月経期」「月経前」のコンディションはあまりよくない、と考えられるでしょう。
月経期のコンディション
ある調査によると、トップアスリートの約25%に月経困難症が認められ、運動能力への影響が示唆されています。月経困難症とは、月経時の下腹部痛や腰痛だけでなく、頭痛や悪心、食欲不振、倦怠感などの症状により、日常生活に支障きたす状態をいいます。
また、ある調査ではトップアスリートの40%近くが過多月経の経験があり、50%以上が競技に影響があると回答しています。過多月経は貧血の原因になることから、競技のパフォーマンスを向上させるためも、貧血の検査・治療を積極的に行なう必要があります。
月経前(排卵から次回月経までの黄体期)の特徴
黄体期の心身の不調は月経前症候群(PMS)といわれ、トップアスリートの約70%にみられるとの報告があります。症状の内訳をみると、「体重増加」「食欲亢進」と回答する方が多く、いらいら、気分の落ち込み、集中力の低下を挙げる方も少なくありません
体重増加に関しては、主に女性ホルモンによる水分貯留が原因と言われており、体重が1~2kg増加することもあるようです。個人差が大きいと言われますが、少なくとも黄体期は体重が落ちにくい時期と考えられます。
ただし、黄体期では熱産生が高まるため、排卵前の時期よりも基礎代謝量が10%程度増加する、つまりエネルギー消費量は増加するとの報告があります。一方、エネルギー摂取量も黄体期に増加することが知られています。黄体期にはエネルギー消費量が増加するため、不足分を補おうとして食欲が亢進し、結果的にエネルギー摂取量が増加していると考えられます。つまり、黄体期の食欲増加は自然の摂理と言えるでしょう。
ちなみに、エストロゲンには摂食抑制作用があり、月経から排卵までの卵胞期はエストロゲンが優位であるため、比較的体重をコントロールしやすいのかもしれません。
女性アスリートは「月経困難症」「過多月経」「PMS」を克服すれば、あまり月経周期に左右されずパフォーマンスを発揮できるようになるのでは、と思っています。
そのためにも、女性アスリートに対して低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP製剤)をより積極的に利用したい、と私たちは考えています。