院長コラム
妊娠期乳がんについて
先日、聖路加臨床疫学センターにおいて「症例から学ぶ妊娠期乳がん~みんなで守ろう2つの命~」というシンポジウムが開かれました。聖路加国際病院乳腺外科の先生が代表者を務める日本乳癌学会研究班の主催で、多くの施設からご発表がありました。
今回は妊娠期乳がんについて、シンポジウムや「妊娠期がん診療ガイドブック」(南山堂)を参考に情報を共有したいと思います。
妊娠期乳がんの概要
わが国の頻度は妊婦さん3,000人に1人で、1年間に約300人が罹患するといわれています。全乳がん患者さんの0.52%、45歳以下の乳がん患者さんの2.6%と比率は必ずしも高くはありませんが、近年増加傾向にあります。その理由として、女性の社会進出や生殖補助医療の発展などにより30~40歳代で妊娠・出産される女性が増えてきていることが挙げられています。
妊娠期乳がんといって特異的な症状はなく、むしろ乳房にしこりを自覚しても妊娠症状の一つとして認識されることが多いため、結果的に乳がんの診断が遅れることがあります。
診断・検査
○視触診・乳房超音波検査
当院では胎児への影響がない視触診・乳房超音波検査を行なっています。精査が望ましいと判断した場合、近隣のブレストクリニックへ紹介致します。
○マンモグラフィ(MMG)
乳房超音波で乳がんが疑われた場合、必要に応じてMMGを行います。MMGによる被曝は極めて低く、腹部を遮蔽することにより、胎児への影響を更に軽減することができます。
○ 細胞診・針生検
確定診断のため、局所麻酔後に細胞診・針生検を行ないます。胎児への影響はありませんので、どの妊娠期間でも検査できます。
治療
妊娠期乳がんの治療にあたっては、進行期、がん組織の性質、妊娠週数などを考慮し、母児二人の命を救うことを目指します。
○ 外科治療
妊娠12週から妊娠28週頃までの外科治療についてはほぼ安全性が確立されています。麻酔の胎児への影響もほとんどなく、子宮もあまり大きくないため外科手技の妨げにならないようです。
妊娠12週未満は麻酔薬による胎児に与える影響などから控える傾向にあります。また、妊娠末期は、子宮増大による手術への影響、分娩誘発のリスクなどから、産後まで待てるようながんの状態であれば、手術を遅らせるようです。
○ 抗がん剤治療
妊娠12週頃までは、抗がん剤による胎児への影響を考慮して行ないませんが、妊娠初期から後期にかけては比較的安全とされているため、妊娠中でも抗がん剤治療を行なうことがあるようです。ただし、早産や破水などの頻度がやや増加するという報告や、薬剤によっては羊水過少などの副作用もあるため、その判断は慎重に行われます。
尚、産後経過が良好であれば、出産1~2週間後から抗がん剤治療は可能です。ただし、乳汁への薬剤移行を考慮し、初乳だけ与えて母乳を止めることが多いようです。
もし、当院で妊娠中に乳がんが疑われた場合、桜新町濱岡ブレストクリニックに紹介致します。そこで乳がんと診断された場合は、聖路加国際病院乳腺外科で治療を受けて頂くことになると思います。
聖路加国際病院では、がん治療医(乳腺外科医・腫瘍内科医)・産婦人科医・小児科医・看護師、助産師、精神腫瘍医・臨床心理士など、多職種のスタッフから成る医療チームが、患者さんとそのご家族をサポートして頂けるとのことです。
妊婦さん、授乳婦さんで乳房のしこりを認めた方は、当院または乳腺科へ早めに受診して下さい。