院長コラム

子どもに抱く情緒的な絆を母親が築けない時           ~ボンディング障害への対応~

子どもが健康・健全に育つためには、親(特に母親)への愛着形成が必要です。しかし、不適切な養育により親への愛着が形成できない、愛着障害を持つお子さんがいます。このような愛着障害の要因として、「我が子を愛おしく思い、親として守ってあげたい」といった、親が子どもに抱く情緒的な絆が欠如していること(ボンディング障害)が挙げられます。
今回は、「周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド2017」(日本周産期メンタルヘルス学会)を参考に、ボンディング障害への対応についてお話します。

 

 

ボンディング障害が疑われる症状と発症時期

ボンディング障害が疑われる妊娠中および産後の症状は、以下の3つが指摘されています。

① 子どもに無関心な様子
子どもを抱く、授乳するなどの養育行動が見られない・子どもが泣いても反応がない等

② 子どもを拒絶する様子
 妊娠中は、妊娠を後悔し、産みたくないと発言する等。
 産後は、子どもをかわいいと思えず、子どもの世話を拒否する等。

③ 子どもに対する怒り
 子どもが泣き止まない、母乳を飲まない等にイライラして、子どもを怒鳴り、罵る等。

多くの母親は出産直後に新生児へのボンディングを築きますが、15~40%の母親は母性的感情の芽生えが遅れるといいます。
ボンディング障害発症のタイミングは、重症患者さんでは、半数が出産直後、残りは産後1週間以内であり、軽症患者さんでは、半数は出産初日、残りは出産1週間以降との報告があります。

 

 

ボンディング障害の要因

ボンディング障害の要因は、必ずしもお母さんの精神障害だけではなく、以下のような様々な要因が影響していると考えられます(吉田分類)。

① 環境の要因
母児分離・周囲のサポート不足・シングルマザー・不仲な夫婦関係・配偶者からのDV等。

② 母親の要因
妊娠期および産後のうつや不安・辛い妊娠出産体験・予期しない妊娠・以前の死産体験・母親自身が未成熟等。

③ 子どもの要因
早産児・病気や障害・望まない性・子どもの気質等。

 

 

当院におけるボンディング障害への対応

当院では妊娠中から、産科医・助産師・栄養士・受付スタッフが、妊婦健診や妊娠中の面接などを通して、お母さんの様子を観察しています。また、分娩後に「赤ちゃんへの気持ち質問票」を記載して頂き、ボンディング障害の評価判定の参考にしています。
もし、ボンディング障害の可能性があると判断した場合は、スタッフ間で情報を共有し、助産師がお母さんに寄り添い、お住まいの地域保健所へ情報を提供し、行政の早期支援に繋げていきます。

また、軽い抑うつや不安感が見られるお母さんには漢方薬を中心とした薬物療法を開始し、精神症状が強い場合には、地域の精神科クリニックへ紹介するなど、他施設との医療連携を通してサポートしています。

 

 

育児は母親・夫婦・家族が主体となって行なうことはもちろんですが、行政やコミュニティによるサポートも必須であると考えています。
母親のボンディング障害による子どもの不健康・不健全な成長を回避するためにも、医療機関と行政機関との連携、産婦人科・小児科・精神科などの医療連携、医師・助産師・看護師・保健士・栄養士・心理士など多職種
連携といった多くの緊密なネットワークが必要です。
当院は地域の産婦人科医療施設として、関係機関や他職種と連携を図りながら、できる限り母と子を支援して参ります。