院長コラム

妊娠中のクラミジア感染症について

わが国の性器クラミジア感染症は性感染症の中で最も患者数が多く、報告数は2002年をピークに減少傾向にありましたが、2015年から2017年にかけては微増に転じています。
今回は女性のクラミジア感染症、特に妊娠中の対応に関して、「産婦人科診療ガイドライン 婦人科編2017」「産婦人科診療ガイドライン 産科編2017」などを元に説明致します。

 

 

性器クラミジア感染症の症状

女性の場合、子宮頚部に感染したクラミジアが子宮頚管炎を起こし、帯下が増量することがあります。また、感染が上行すると、子宮内膜炎、卵管炎、子宮付属器炎、骨盤内炎症性疾患、肝周囲炎などをきたし、不妊症や異所性妊娠(子宮外妊娠)、激しい腹痛の原因になります。

ただし女性の場合、性器クラミジア感染症の90%は、全く自覚症状を感じない無症候性クラミジア感染症といわれています。つまり、多くの方が感染していても無治療で放置されており、知らぬ間に感染が広がっている可能性もあります。

更に近年は、コンドームを使用しないオーラルセックスにより、扁桃炎や咽頭炎にかかってしまっているケースが増えています。治療は子宮頚管炎に準じますが、扁頭・咽頭感染の方が子宮頚管炎よりも、治癒に時間がかかるといわれています。

また、クラミジア頚管炎の妊婦さんが感染に気付かないで治療せずに経腟分娩すると、児は産道感染をきたし、肺炎や結膜炎などの新生児クラミジア感染症を引き起こす可能性があります。

 

 

母子感染の予防のために

新生児クラミジア感染症を予防するため、現在では妊婦健診でのクラミジア・スクリーニングが公費で行なわれています。当院では妊娠16週頃に、原則として妊婦さん全員に検査を行なっています。

 

 

クラミジア感染症の治療

クラミジア検査で陽性になった場合の薬物療法として、胎児への影響がほとんどなく、安心して妊婦さんに使用できるマクロライド系抗生剤である「ジスロマック錠250mg1日4錠1回」または「クラリス錠200mg1回1錠1日2回7日間」が推奨されています。当院では妊娠20週頃に、飲み忘れの心配がなく1回の服用で治療が終了する「ジスロマック」を主に処方しています。

治療効果の判定は、服用終了後3週間以上あけて行なうことが推奨されています。当院では、服用してから約4週間後にあたる妊娠24週頃の妊婦健診時に、再度クラミジア検査を施行しています。現時点では世界的に、臨床的に問題になるようなマクロライド系に対する耐性菌は存在せず、当院でもジスロマック服薬により全例陰性化、つまり治癒しています。

尚、クラミジア・スクリーニング検査で陽性になった時点で、パートナーには泌尿器科を受診して頂き、精査・治療をお願いしています。また、お二人とも陰性化が確認されるまでは、性行為は控えて頂いています。

 

 

クラミジアが若年者の間で蔓延しているアメリカでは、25歳以下の性活動をもつ女性、25歳以上でもパートナーを変えた女性、複数のパートナーと性交渉がある女性などは年一回のクラミジア・スクリーニングが勧められているそうです。
わが国では非妊娠時のスクリーニング検査は推奨されていませんが、当院ではブライダルチェックとしてクラミジア検査を行なうほか、帯下や下腹部痛を認める性交経験のある若年女性に対して、保険診療としてクラミジア検査も積極的に行なっています。
しかし、最も大切な事はクラミジア感染症はじめとする性感染症の予防です。
そのためには、妊娠を希望しない性交(オーラルセックスを含む)の際は、必ずパートナーにコンドームを正しく装着してもらいましょう。