院長コラム

オキシトシンの作用と社会的行動

脳の視床下部で産生され、下垂体から分泌されるオキシトシンというホルモンは、子宮を収縮する作用があります。その作用を利用して、分娩誘発・促進にはオキシトシン製剤が広く用いられます。
ただし、オキシトシンには他にも多くの作用があり、親子の愛着行動などの社会的な行動にも影響を及ぼすことが知られています。
今回は、「日本周産期メンタルヘルス学会学術集会」での神経脳生理学の先生によるご講演から、オキシトシンの作用と社会的行動について、ごく一部ですが情報共有したいと思います。

 

オキシトシンと母子のつながり

妊娠・分娩によりお母さんのオキシトシンが増加すると、母性行動が活発になり、その結果、母児共にオキシトシンの働きがさらに活発化するという「望ましいループ」が回るそうです。
出産後、お母さんが赤ちゃんを抱っこして触れることにより、赤ちゃんは気持ちよくなってオキシトシンが増えます。
また、乳頭を刺激することにより、お母さんのオキシトシンが増加し、そのオキシトシンが母乳にも移行します。オキシトシンが含まれている母乳を赤ちゃんが飲むことで、さらに赤ちゃんのオキシトシンは増加します。
適切な母児のスキンシップは、オキシトシンの作用の点でも、母児にとって非常に重要であると考えられます。

 

父親と子供のつながり

父親は赤ちゃんが生まれても、生理学的にオキシトシンが急増することはないため、積極的に育児に参加し、赤ちゃんと触れあることでオキシトシンを増やし、父性を育てる必要があるようです。
また、オキシトシンは仲間の結束を強める反面、敵対する集団に対しては攻撃的になる側面もあるそうです。
父親と母親が一緒に育児をすれば“仲間”ですが、父親が育児に参加しなければ、母子と父親が“敵同士”になりかねません。可能であれば父親の積極的な育児参加が望まれます。

 

子育ては社会による共同保育も大切

ただし、母親だけの育児はもちろん、両親だけの育児も大きなストレスを抱えることになります。
そもそも、人の育児は小さな家族だけの問題でなく、共同体で行うことが望ましいとの考えがあります。
オキシトシンには仲間と協力して社会をつくろうとする働きがあり、傷ついた仲間を慰めて支える働きがあります。オキシトシンの点からも、地域の育児サポートは非常に重要であると思われます。

 

オキシトシンの働きにはまだ不明な点も多いようです。
ただし、家族や仲間との絆、思いやりのある協力しあう社会を作るために、オキシトシンが重要な役割を担っていることは間違いないようです。
当院も、スタッフ一同オキシトシンを増やし、母子をサポートしたいと考えています。