院長コラム
つわりの症状がある妊婦さんは、脱水による血栓症に注意しましょう
妊娠初期のつわり(悪心・嘔吐)は妊婦さんの半数以上にみられ、体重減少、脱水、電解質異常を伴う「妊娠悪阻」は0.5~2%にみられます。
水分の摂取が少ないと血液がドロドロとなり、放置すると血管の中に血の塊ができてしまう「血栓症」のリスクが高まります。特に夏は発汗が多く、脱水になりやすい季節ですので、熱中症だけでなく、血栓症にも用心する必要があります。
今回は、「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会)を参考に、つわり・妊娠悪阻の対応について情報を共有致します。
軽症(つわり)の対応
嘔吐はなく、経口摂取はできるものの、嘔気が強く日常生活に支障をきたす場合は、当院では第一選択として、小半夏加茯苓湯、半夏厚朴湯などの漢方薬を処方するケースが多いです。1週間服用された段階で、同じ薬剤を継続するか、プリンペラン(制吐剤)などに切り替えるかを検討します。
尚、食事の注意としては、胃腸に負担のかからない物を少量ずつ、1日4~5回程度に分けて召し上がるようにしましょう。カロリーメイトのゼリーなどは、手軽にカロリーを摂取できる補食としてお勧めです。
中等症(妊娠悪阻)の対応
糖質の経口摂取が少なくなると、糖質の分解によるエネルギーが不足するため、自身の脂肪をエネルギー源として利用するようになります。その際の代替エネルギーをケトン体といい、尿中ケトン体が陽性の場合は、つわりが悪化した「妊娠悪阻」の状態であると考えます。また、体重の5%以上(60kgの方であれば3.0kg以上)の体重減少を認める場合も、妊娠悪阻と判断します。
漢方薬や制吐剤で改善しない場合は、外来診療として点滴治療を約2~8時間行います。当院では500ml~2000mlの細胞外液やブドウ糖液に、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンC、プリンペラン注射剤などを混注して点滴静注します。特に夏場は、脱水による血栓症を予防するために、十分に補液を行っています。
重症(重症妊娠悪阻)の対応
内服薬や外来診療での点滴治療にもかかわらず、ほとんど経口摂取ができない場合や尿中ケトン体の強陽性が持続する場合は、入院による点滴加療を行います。
通常は数日から1週間程度の入院治療で軽快しますが、症状が改善せず、さらに長期の入院が必要と判断した場合は、高次施設へ転院となることもあります。
今年の夏、まだまだ猛暑が続くようです。室内であっても、こまめに水分を摂取するようにしましょう。
また、つわりの予防としてマルチビタミンが有効との報告もあります。
妊娠前から「エレビット」などのサプリメントを継続的に摂取するようにしましょう。